有名企業の内部では何が起きているのだろうか。身近な企業であっても、外からは決して見えない裏側がある。本稿では、『ルポ 超高級老人ホーム』で富裕層のみが入居できる“終の棲家”を取材したノンフィクションライター・甚野博則氏と、『潜入取材、全手法』(角川新書)を上梓し、Amazonやユニクロなど大企業への潜入取材経験のあるジャーナリスト・横田増生氏の対談をお届けする。(企画・構成:ダイヤモンド社書籍編集局 工藤佳子)
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潜入取材は“需要”がある
――横田さんや甚野さんはこれまで色んな場所に潜入取材をされてきました。きっかけは何だったのでしょうか。
横田増生(以下、横田):まさか何度もやると思ってなかったんだけど、始めはたまたまAmazonで潜入取材をして、『アマゾン・ドット・コムの光と影』(2005年、情報センター出版局)を書いたんです。その間に潜入モノじゃない本も2冊ぐらい書いていて、別に潜入取材専門という気はなかった。
でも、『仁義なき宅配』(2015年、小学館)を書いた時、相手が取材を受けてくれなかったので、潜入という手法をとらないと書けなかったんです。するとそれが好評で、潜入モノって需要あるのかなって思いました。
『ユニクロ帝国の光と影』(2011年、文藝春秋)でユニクロと裁判をしたあとに、『ユニクロ潜入一年』(2017年、文藝春秋)を書いた時は、意識的に「今までの手法で潜入取材をすれば、ユニクロでも通じるな」と思いました。
「誰もやっていないから“潜入”って付くだけでちょっと加点になる」っていうのが、ユニクロの取材とアメリカの大統領選でトランプ陣営へ潜入した『「トランプ信者」潜入一年』(2022年、小学館)の取材あたりで見えてきたんです。そう考えると、潜入取材を本格的にしてる人ってあんまりいないなと思いました。
“一見さんお断り”銀座のクラブに潜入
甚野博則(以下、甚野):僕は週刊誌記者だったので、潜入に近いことは取材手法としてよくやっていたんです。一番多いのは会員制のクラブに紛れ込んで、そこでターゲットの話を聞き取るとか。銀座の一見さんお断りみたいな店にうまいこと潜り込んで、普段の行動とかについて裏付けを取る。
横田:一見さんお断りなのにどうやって入れるんですか。
甚野:人づてに行くこともあるし、協力者を見つけて「この人の紹介という体にしてください」って頼むこともあり、状況によっていろいろですね。事実の裏付けやエピソードの要素として潜入に近い取材を入れるのは、週刊誌記者だと結構やってると思います。
そうしているうちに「潜入取材が一番本当の話が取れる」って分かってくるんです。長期間潜入取材をしたら、内側の話がガッツリ取れるよなって漠然と思っていました。だから、横田さんの『ユニクロ潜入一年』が話題になった時に、これはすごいと思ったんです。
横田:トランプ陣営での取材を終えたあとくらいから、若い人たちにもどんどん潜入取材をやってほしいなと思って、『潜入取材、全手法』(2024年、角川新書)を書きました。僕はもういいやと思って。でも、潜入取材って時間もかかるし当たりはずれもあるし、なかなかやれないですよね。



