高級老人ホーム内でも
“ヒエラルキー”がある
横田:入居者が運営する理事会が頑張っている施設もありました。あれはめんどうな感じがしますね。
甚野:高級であればあるほど、社会で勝ち残ってきた人たちが入居者として集まっているんです。
でも、高級老人ホームに入ってからも入居者の間で力関係が形成されていくんですよね。だから、この本に出てくる施設だけではなく、他の施設でもそういうことが起きてるんだと思います。
横田:大変やなと思いました。もちろんその施設も、本に出てくるような人たちが全部じゃないんだろうけども。
甚野:仮に超高級老人ホームを見学しても、入居してみたら実は理事会があって、「手伝わないやつはどうなんだ」みたいな雰囲気になっていることまでは絶対分からないと思うんです。
横田:見学では、分からないですよね。甚野さんは事前に情報を調べてから行くけど、施設側は基本はいいことしか言わないから。
甚野:そうなんですよね。
“別の視点”を入れると
面白さが見えてくる
――サービスやブランドを売りにしている業界の取材は難しさがあるのでしょうか。
横田:『中学受験』(2013年、岩波新書)を書くにあたって中学受験業界を取材していた時も一緒で、全部いいことしか言わなかったです。
うちの学校の売りはいじめがなくて、中高一貫で、とか、教育理念がキリスト教だとか仏教だとかいうけれども、全部同じだと思ってて。でも、事前に関係者から聞いていたいじめの話なんかすると、校長がひっくり返りそうになっていました。「なんでそんなこと知ってるんですか」みたいな。
『ルポ 超高級老人ホーム』は、外側からするとちょっと分かりにくい内部の話を初めてジャーナリスティックなルポルタージュという視点で書いた面白さもあります。ただ施設を取材するだけでは、全部カタログと同じように見えてしまう。
甚野:高級老人ホームだけじゃなくて、どこの業界もやっぱり綺麗事しか言わないという大前提がありますよね。
色んな取材手法で当たることで、「いやいや、そうはいっても」という視点を入れる面白さがきっとあると思うんですよね。
1973年生まれ。大学卒業後、大手電機メーカーや出版社などを経て2006年から『週刊文春』記者に。2017年の「『甘利明大臣事務所に賄賂1200万円を渡した』実名告発」などの記事で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」のスクープ賞を2度受賞。現在はフリーランスのノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌などで社会ニュースやルポルタージュなどの記事を執筆。近著に『実録ルポ 介護の裏』(文藝春秋)、『ルポ 超高級老人ホーム』(ダイヤモンド社)、『衝撃ルポ 介護大崩壊』(宝島社)がある。
1965年福岡県生まれ。関西学院大学を卒業後、予備校講師を経て、アメリカ・アイオワ大学ジャーナリズム学部で修士号を取得。93年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務める。99年よりフリーランスとして活躍。主な著書に、『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』、『評伝 ナンシー関「心に一人のナンシーを」』、『仁義なき宅配 ヤマトvs佐川vs日本郵政vsアマゾン』、『ユニクロ潜入一年』『潜入取材、全手法』など。『潜入ルポamazon帝国』(小学館)では、新潮ドキュメント賞、編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞の作品賞を受賞。最新刊『「トランプ信者」潜入一年』(小学館)では、「山本美香記念国際ジャーナリスト賞」を受賞。









