新刊『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』は、東大・京大・早慶・旧帝大・GMARCHへ推薦入試で進学した学生の志望理由書1万件以上を分析し、合格者に共通する“子どもを伸ばす10の力”を明らかにした一冊です。「偏差値や受験難易度だけで語られがちだった子育てに新しい視点を取り入れてほしい」こう語る著者は、推薦入試専門塾リザプロ代表の孫辰洋氏で、推薦入試に特化した教育メディア「未来図」の運営も行っています。今回は、特別な経験ゼロでも推薦で合格する子のたった一つの特徴について解説します。
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推薦入試で評価される「体験」
実は、推薦入試の現場を見ていると、留学経験や大きな課外活動の実績がまったくなくても、合格していく生徒は少なからずいます。むしろ、「そんな経験でいいの?」と思ってしまうような、日常の中のごく小さな体験を、徹底的に深掘りしているケースのほうが、印象に残ることすらあります。
たとえば、地方部の高校に通っていたある生徒は、特別なプログラムや海外経験があったわけではありません。部活も普通、成績も突出しているわけではない。けれど、その生徒は、地元でよく顔を合わせる年配の方との何気ない会話を、きちんと覚えていました。
「若い人が集まる場所が、昔はもっとあったんだよ」
「今は、話し相手がいなくてね」
そんな言葉が、ずっと引っかかっていたそうです。そこからその生徒は、「なぜ今の地方には、世代を超えて人が集まる場が少ないのだろう」「これは高齢化の問題だけではなく、コミュニティの構造そのものの問題なのではないか」と考えるようになりました。
さらに、「都市部にはカフェやイベントスペース、学校外の居場所がたくさんあるのに、地方にはなぜ少ないのか」「仮に作るとしたら、誰が担い手になり得るのか」と、考えを広げていきました。最初のきっかけは、ただの雑談です。お金のかかる体験でも、特別な活動でもありません。
しかし、その経験を通して何を感じ、どんな問いを立て、どこまで考えを発展させたのかを、自分の言葉で語れたことで、その生徒は大学から高く評価されました。
評価されているのは「体験の派手さ」ではなく…
このようなケースを見るたびに思うのは、評価されているのは「体験の派手さ」ではなく、「体験との向き合い方」だということです。大学が見ているのは、「どこへ行ったか」でも「何をしたか」でもありません。その出来事を、どれだけ自分の頭で咀嚼し、社会や未来と結びつけて考えられているかです。
だからこそ、留学に行っていなくても、全国大会に出ていなくても、合格する生徒はいます。一方で、体験の数だけは多くても、それらを「やったこと」としてしか語れない場合、評価は伸びません。
この差を生んでいるのは、体験の量でも、家庭の資本力でもありません。体験をしたあとに立ち止まり、「あれは何だったのか」「自分は何を感じたのか」と考える時間があったかどうか。そして、その思考を支えてくれる大人がそばにいたかどうかです。
推薦入試で求められているのは、特別な人生ではありません。日常の中にある出来事を、問いに変え、考え続けられる力です。その力は、どんな環境にいても育てることができますし、そこにこそ、家庭や地域の関わり方の差が、はっきりと表れてくるのだと思います。
(この記事は『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』を元に作成したオリジナル記事です)




