新刊『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』は、東大・京大・早慶・旧帝大・GMARCHへ推薦入試で進学した学生の志望理由書1万件以上を分析し、合格者に共通する“子どもを伸ばす10の力”を明らかにした一冊です。「偏差値や受験難易度だけで語られがちだった子育てに新しい視点を取り入れてほしい」こう語る著者は、推薦入試専門塾リザプロ代表の孫辰洋氏で、推薦入試に特化した教育メディア「未来図」の運営も行っています。今回は、名門大学に受かる子育てで1番大切なことについて解説します。

受験Photo: Adobe Stock

旅行もボランティアもさせたけど…

子育てにおいて、実はとても重要なのに、見落とされがちなことがあります。それが、「体験を言語化すること」です。

私たちのもとには、日々さまざまな相談が寄せられます。その多くは、「この子は、こんな体験をしてきました」「こんな経験を積んできたのですが、これを生かして選抜入試に合格させることはできないでしょうか」というものです。話を聞いてみると、たしかに内容だけを見れば魅力的な体験です。ボランティア、留学、探究活動、地域活動、部活での経験……。一見すると、「これは評価されそうだ」と思えるものも少なくありません。

ところが、実際にそのお子さん本人に話を聞いてみると、親御さんの認識とは乖離がある場合が多いです。

「正直、あんまり覚えていないです」
「やってはいましたけど、何が大事だったかはよくわからなくて……」

こうした反応が返ってくることが、驚くほど多いのです。この時点で、私ははっきり言います。これでは、推薦入試は通りません。

推薦入試で評価されること

どれだけ立派な体験をしていても、それを自分の言葉で説明できなければ、評価されることはありません。なぜなら、推薦入試や総合型選抜は、「何をやったか」そのものを見ている試験ではないからです。大学が見ているのは、その経験を通して、何を考え、何に気づき、どのように自分が変わったのか、そしてそれをどれだけ自分の言葉で語れるか、という点です。

極端な話をすれば、内容としてはそこまで派手ではない経験でも、きちんと意味づけされ、筋道立てて語れる人のほうが、圧倒的に評価されます。逆に、「すごい経験」をしているのに、「言われたから参加した」「気づいたら終わっていた」「何が良かったのかはわからない」という状態では、どんな大学でも首を縦には振りません。推薦入試は、決して甘い試験ではないのです。

親ができることとは?

だからこそ、親の役割がここで決定的に重要になります。大事なのは、「すごい体験をさせること」そのものではありません。どんな経験であっても、それを言葉にするのを手伝ってあげることです。

体験した直後に、「どうだった?」と一言聞くだけで終わっていませんか。そこで終わってしまうと、多くの経験は、時間とともに曖昧になり、やがて「なんとなくやったこと」に変わってしまいます。本当は、その先が大事なのです。「何が一番印象に残った?」「うまくいかなかったところは?」「最初と今で、考え方は変わった?」。こうした問いを通して、経験を振り返り、言葉にしていく。その積み重ねが、初めて「意味のある経験」になります。

推薦入試で評価されるのは、特別な才能や派手な実績ではありません。自分の体験を、自分の言葉で語れる力です。そしてその力は、自然には身につきません。家庭の中で、大人が対話を重ね、言語化を支えてきたかどうかで、はっきりと差が出ます。

どんなにいい経験をしていても、それを語れない人が合格することはありません。だからこそ、子育てにおいて本当に大切なのは、「何を経験させるか」以上に、「その経験をどう言葉にさせるか」なのだと思います。

(この記事は『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』を元に作成したオリジナル記事です)