新刊『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』は、東大・京大・早慶・旧帝大・GMARCHへ推薦入試で進学した学生の志望理由書1万件以上を分析し、合格者に共通する“子どもを伸ばす10の力”を明らかにした一冊です。「偏差値や受験難易度だけで語られがちだった子育てに新しい視点を取り入れてほしい」こう語る著者は、推薦入試専門塾リザプロ代表の孫辰洋氏で、推薦入試に特化した教育メディア「未来図」の運営も行っています。今回は、「不登校」がむしろ有利にもなる推薦入試の現実について解説します。

合格 受験Photo: Adobe Stock

物語力とは、「自分の経験をどう語るか」の力

私たちはこれまで、実際に大学に合格した生徒の志望理由書を集め、どんな子が合格しているのかを徹底的に分析してきました。その中で、合格者はいくつかの『合格者の共通点』があることがわかっています。

その1つが、「物語力」です。

「物語力」と聞くと、「小説が書ける」「文章が上手い」といったことを思い浮かべるかもしれません。しかしここでいう物語力とは、「自分の経験に意味を与え、筋道立てて語る力」のことです。

総合型選抜では、どんなに素晴らしい実績があっても、「なぜそれをやったのか」「そこから何を学んだのか」が語れなければ評価されません。

逆に、どんなに失敗した経験でも、それをどう乗り越え、どんな気づきを得たのかを“物語”として伝えられる人は、確実に強い。つまり、物語力とは、「自分の人生をどう編集するか」という力なのです。

「不登校」「挫折」「失敗」――ネガティブな経験こそ武器になる

私たちが分析した合格者の志望理由書の中には、順風満帆な高校生活を送った学生ばかりではありません。中には、不登校や挫折を経験した学生も数多くいました。

しかし、彼らの書く文章は、単に「つらかった」では終わらず、必ず“その経験が自分に何を教えてくれたか”が書かれていることです。

たとえば「自分は不登校を経験したからこそ、同じように悩む人に寄り添うことができると思う。」「部活でチームをまとめることに失敗したけれど、その経験を通して“人を動かすにはまず信頼が必要だ”と気づいた。」などなど、過去の失敗や挫折を「意味のある経験」に変換しています。

大学の先生が「この学生は自分の過去をきちんと消化している」と感じると、その人の言葉には重みが生まれます。つまり、物語力とは“過去の出来事に意味を与える力”であり、その意味付けこそが志望理由書に深みをもたらすのです。

「この出来事は、将来の自分にとってどんな一章になるのか?」

印象的だったのは、ある推薦入試の合格者の言葉です。彼は高校時代に自分がリーダーを務める団体の中で、仲間との対立を経験し、大きな挫折を味わいました。しかしその経験を、こう振り返っていました。

「あのときの出来事は、まだ“途中の章”なんだと思います。きっと将来の自分がこの章を読み返したとき、『あの経験があったから今の自分がある』と意味づけられるようにしたい。」

この発想こそが、まさに物語力です。今の出来事を未来から見た視点で捉えることができる人は、自然と志望理由書の説得力が増していきます。

悲しいことやつらいことがあったときに、「これは最悪だった」で終わるのではなく、「この経験は、自分の物語の中でどんな意味を持つんだろう?」と考えてみる。

この一歩が、物語力を育てる最初の練習になります。

「自分の人生が小説だったら?」と考えてみよう

私は受験生によくこうアドバイスしています。

「自分の人生が小説だったら、この出来事はどんな場面として描かれると思う?」

たとえば、部活での敗北は“挫折の章”かもしれません。けれど、それを通じて仲間の大切さに気づいたなら、それは“再出発の章”にもなる。

物語というのは、出来事そのものではなく、“語り方”によって形が変わります。同じ経験でも、落ち込んだだけの人と、学びに変えた人では、伝わる印象がまったく違うのです。

志望理由書や面接は、まさに“自分という物語を語る場”です。だからこそ、「自分が語る物語を、聞く人がどう受け取るか」を意識することが大切だと言えます。

(この記事は『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』を元に作成したオリジナル記事です)