なぜデンマーク人は残業しないのか?

―― 日本とデンマークでは、実際の労働時間にどれくらいの差があるのですか。

井上:実は、労働時間そのものはほとんど変わりません。日本は法定労働時間が週40時間ですが、デンマークでは労使が結ぶ「労働協約」で標準化された労働時間が週37時間です。ただ、大きく異なる点は、週37時間と決まっていれば、それ以上は本当に働かない、という線引きが極めて明確なことです。

午後4時台に退勤する国デンマーク、現地で働く日本人の「ある1日の時間割」労働者一人当たりの年間労働時間の比較(『第3の時間』より)

 日本では「仕事が終わらなければ残業する」という感覚が一般的かもしれませんが、デンマーク人は仕事の後の時間を“聖域”のように扱い、夕方の早い時間にさっさと退勤します。かつて私が当然だと考えていたような、「1日の中で仕事を何よりも優先すべきだ」という価値観とは違うのです。

 私自身、移住した当初はこの短時間労働に馴染めず、遅くまで働いていた時期もありました。でも、周囲が当たり前のように午後4時台に退勤し、夕方以降の時間にしっかりと人生を楽しむ様子を目の当たりにするうちに、考え方が変わっていきました。

―― どのように変わったのですか。

井上:仕事の量に合わせて仕事時間を決めるのではなく、お尻の時間を決めた上で、その時間内にいかに価値のある仕事をするか、と考えるようになりました。今では、働く時間を短くしたからといって、結局、得られる成果はさほど変わらないという実感もあります。

 そもそもデンマークでは、保育園や学校の運営自体が、保護者の短時間労働を前提に成り立っています。そのため、長く働くことが物理的に難しい、という社会的な背景もあります。

―― 子どもの教育に対する考え方も、日本とは大きく違うのでしょうか。

井上:たとえば、小学校低学年くらいまでは「プレイデート」という習慣があります。クラスの中で数人のグループを作り、放課後に一緒に遊ばせるのですが、驚くことに、これを学校側から“必須”の課題として与えられています。デンマークの学校では、宿題はほとんど出ませんが、子ども同士の遊びは「必須」。このあたりに、社会的なつながりを大事にするデンマークらしさを感じます。