長時間労働に追われていた新聞記者の著者は、39歳でデンマークに移住。そこで目にしたのは、誰もが短時間で仕事を切り上げ、自由な時間を謳歌している光景だった。「午後4時台に帰宅ラッシュ」――そんな“ゆるい”働き方なのに、デンマークの1人当たりGDPは日本の約2倍。賃金水準も高く、競争力ランキングは世界No.1。なぜ、日本とここまで働き方や暮らしぶりが違うのか? 話題の新刊『第3の時間──デンマークで学んだ、短く働き、人生を豊かに変える時間術』から、特別に一部を抜粋して紹介する。
写真:井上陽子
競争社会から距離を置きながら、世界一の競争力を手にしたデンマーク
そんなふうに、頭の片隅にモヤモヤを抱えていた私が、がぜん本腰を入れて取材する気になったのが、2022年、デンマークが「世界競争力ランキング」で1位となった時だった。
このランキングは、スイスのビジネススクール国際経営開発研究所(IMD)が、1989年から毎年発表しているものである。デンマークは、年を追うごとに着々と順位を上げていたのだが、2022年、ついに首位に躍り出た。そして日本はと言えば、ずるずると順位を下げ、この年は63カ国・地域のうち34位と、下から数えた方が早い位置まで落ち込んでいた。

私は戸惑った。かつて自分が暮らしてきた日本や米国のような競争社会とは、ほど遠いように見えるデンマーク。それで競争力で1位って、それはさすがに、どういうこと?
そもそも、「競争力」と「福祉国家」って、矛盾したように聞こえないだろうか。そんなに働かなくても、国が手厚く生活を保障してくれるなら、頑張って働く意欲が削がれようというものである。
収入が高ければ税率も高くなり、最高の所得税率は6割弱に達し、たくさん稼いだところでがっぽり税金で持っていかれる。だから、デンマークの友人たちは「高額所得者なんて、月曜から金曜のうち、水曜までは国のために仕事しているようなもんだよね(5日のうち3日=6割)」なんて揶揄しながら、ほどほどの稼ぎが一番、などと言うのである。
私の衝撃をよそに、デンマーク人たち自身は、“競争力ランキングで1位”の知らせに、大して喜んでいるようにも見えなかった。私が一人で興奮して周囲に話題をふっても、「デンマークが、なんのランキングで1位って?」と聞き返されるのが関の山。なぜ競争力が高いんだと思う? と聞いても、「いやー、なんでだろうね?」とたいていの人は不思議がった。



