長時間労働に追われていた新聞記者の著者は、39歳でデンマークに移住。そこで目にしたのは、誰もが短時間で仕事を切り上げ、自由な時間を謳歌している光景だった。「午後4時台に帰宅ラッシュ」――そんな“ゆるい”働き方なのに、デンマークの1人当たりGDPは日本の約2倍。賃金水準も高く、競争力ランキングは世界No.1。なぜ、日本とここまで働き方や暮らしぶりが違うのか? この記事では、話題の新刊『第3の時間──デンマークで学んだ、短く働き、人生を豊かに変える時間術』から、特別に一部を抜粋して紹介する。
写真:井上陽子
首都コペンハーゲン、早すぎる帰宅ラッシュ
私が初めて北欧・デンマークという国を訪れたのは、2014年、アメリカで特派員をしていた時のことだった。
イギリスまで出張する機会があり、その足でデンマークに向かって、夏休みを過ごすことにしていた。当時お付き合いしていたデンマーク人の彼(今の夫)の故郷ということで、首都・コペンハーゲンで1週間ほど滞在することにしたものの、デンマークについての知識といえば、「幸福度ランキングでいつもトップ」という程度。それまでの私の人生には、無縁の世界だった。
日本での新聞記者生活も相当に多忙なものだったけど、特派員になってからはそれに時差まで加わって、夜中から原稿を書き始めることもあり、慢性の睡眠不足。だからこの日も、出張を無事に終えてやっとのんびりできる、という安心感で体が溶け出しそうだった。
爽快な夏の日差しが残る午後、空港まで迎えにきてくれた彼が運転していたのが、スズキのマニュアル車だったのをよく覚えている。
「デンマークでは車の税金がべらぼうに高いから、まだマニュアル車が多いんだよ」という説明を聞きながら、高速道路から見えるレンガ色の街をぼーっと眺めていたのだが、コペンハーゲン市内に入ったあたりで車の流れが悪くなった。「ラッシュアワーだね、午後4時を回ったから」と彼が言う。
「4時台でラッシュアワー?」
「うん、金曜だともっと早く帰るから3時台だけど」
さっきまで自分がいた世界とのあまりの落差に、「へー……」と間の抜けた声で答えるしかなかった。そんなゆるい働き方ができるなら、そりゃみんな幸せだろうけど、それでこの国の経済は大丈夫なの?
それが、デンマークという国に対して私が最初に抱いた素朴な疑問だった。



