渡部敏朗・住友重機械工業最高財務責任者Photo by Shintaro Iguchi

2026年1月から住友重機械工業の社長に就任する渡部敏朗・最高財務責任者(CFO)は、同社のトップとしては珍しく財務畑を歩んできた。異例の抜てきの背景には、業績が伸び悩み、株式市場からの評価も上がらない現状を打開しようとする意図がある。渡部氏に「痛みを伴うこともやむなし」とする構造改革の決意を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 井口慎太郎)

期待していたパワー半導体が踊り場に…
不採算部門にメスを入れる!

――かつて総合重工と呼ばれていた、いずれも造船を祖業とする企業群の中で、住友重機械工業は優等生でした。「選択と集中」に先んじて取り組んだからです。

 1990年代後半、それまで得意としていた産業機械と造船で国際競争が激しくなり、収益が低迷し、財務体質も悪化していました。当時は株価が額面を割ることもありました。生き残りを懸けて、2000年代以降、事業ごとに投下資本利益率(ROIC)を精査して、取捨選択する道を選びました。その結果、変減速機、射出成形機、半導体製造装置など量産系の製品に注力するようになりました。当時は中国で油圧ショベルの需要が多く、売り上げをかなり伸ばすことができました。

――ただ、近年は状況が変わっています。株価純資産倍率(PBR)1倍割れが続き、株価は上場来高値を付けた07年の水準には程遠いです。26年度までの中期経営計画も、当初掲げていた営業利益の目標を1000億円から800億円に引き下げています。

 われわれが成長市場として伸ばしていた中国市場の成長が不動産不況で鈍化しました。特に油圧ショベルなどの建設機械は、中国の現地メーカーの成長が著しく、価格競争も激化して打撃を受けています。国内でも、市場規模が大きい北米でも、専業メーカーの存在感は大きく、競争環境は厳しくなっています。

 新型コロナウイルスの感染拡大以降は、原材料費のコストが増大する中、価格政策で後手に回ってしまったこともあります。景気変動の影響を受けやすい量産系の製品の比率が高まっていたことも業績が伸び悩む要因になっています。

 変減速機では幾つかの会社を買収しましたが、収益性は期待したほど上がらなかった一方で、固定費や買収費用は重荷になりました。

――半導体製造装置を成長させる計画ですが、強みを持つパワー半導体は主力市場である電気自動車(EV)の普及が鈍くなっています。今年1月にグループ内で半導体製造装置を担う会社を一つに統合し、パワー半導体で勝機を見いだす方針でしたが、今後の展望をどう描きますか。

 確かにEV化は停滞しています。12月に入ってから欧州では35年に内燃機関車の新車販売を原則禁じる目標を撤回する案が発表されました。1年前の状況とは変わっています。将来的にパワー半導体が成長する流れ自体は変わらないと思いますが、市場が盛り上がるのは28年以降くらいかもしれません。

 住友重機械は、半導体製造工程のイオン注入と、その後のレーザーアニール(レーザ光を使ってウェハーの表面や特定の領域を局所的に加熱し、その後急速に冷却することで材料改質を行う処理)の連続したプロセスで用いる装置を持っています。この連続性を生かせるのはパワー半導体に限らないと考えています。

 レーザーアニール装置では、フランスのLASSEという会社を買収しました。同社のレーザーはこれまで住友重機械が持っていた種類と異なるため、対象領域が広がり、ボリュームの大きい先端系のメモリー半導体での適用を有望視されています。LASSEの顧客は欧米に多く、これまでアジアに偏っていた顧客層を広げられることもメリットです。1年前に描いたシナリオは軌道修正しつつ、足元でいろいろなお客さまから打診いただいている内容と、パワー半導体の盛り上がりへの備えの両にらみで展開していきます。

――半導体製造装置以外ではどの領域を伸ばしますか。

 医療機器は時間をかけて投資していきます。「BNCT」という中性子を使うがん治療システムは適用できる部位が頭頸部に限定されています。部位を広げようとするともっと治験に時間が必要です。

 利益率の良いアフターサービスを伸ばすのも重要です。造船所向けの巨大な「ゴライアスクレーン」は売上高の半分ほどがアフターサービスになります。一度納めると長年使われるので、ビジネスとしては分厚いのです。

次ページでは、渡部氏に構造改革に向けた決意を聞く。事業再編や「黒字リストラ」への考えも語ってもらった。