「不安を感じたのには必ず理由があります。理由のない苦しさなんてありません。真実を確かめることは、誰かを追い詰めるためではありません。これ以上、自分と子どもたちを壊さないためにやることです」

 その言葉を聞いた瞬間、瑠花さんの目に初めて涙が浮かびました。

「そうですよね。私だけじゃなくて子どもたちにも壊していけないものがありますよね。片岡さんにそう言ってもらえて、少し楽になりました」

 それは、疑うことを許された涙だったのかもしれません。

 私はすぐに調査の準備を進めました。

 瑠花さんが、ここ数週間の一睦さんの行動を思い返すと、明確なパターンがあり疑わしい日を絞ることができました。

夫の調査日前日
無情の通告メッセージ

 調査日を翌日に控えた夕方に、瑠花さんからの着信がありました。

 慌てた声で瑠花さんは「片岡さん! 先ほど夫からメッセージで離婚を切り出されました」

 あまりの急展開に驚きましたが、瑠花さんの話を聞き取ると「こんな家庭の状況では生活をやっていけないから別れてほしい。数日後に実家へ引っ越すから、離婚届を準備しておくのでサインして提出してほしい。そして、できるだけ早く家を売りたいから、引っ越しの準備をしておいてほしい。この家に住み続けるならローンを払ってほしい。子どもたちの親権は渡すから、養育費などはまた弁護士を介して取り決めよう」などとあまりに自分勝手な内容でした。

 どうしてよいかわからず動揺している瑠花さんに落ち着いてもらって、とりあえず何も返信はしないことと、できるだけ早く不貞の証拠を抑えるために翌日の調査を行うことで認識を合わせました。

 調査日の朝10時、久村家が見える位置に車で張り込んでいると瑠花さんから「夫が出かける準備を始めたようです。宜しくお願いします」とメッセージが来ました。その十数分後に一睦さんは玄関から出てきました。

 徒歩で最寄りの駅から電車に乗り、3駅ほどで降りた改札口で待ち合わせをしていたであろう女性と連れ立って、まっすぐにホテルに入っていきました。