海上自衛隊の謎ルール「口笛を吹いてはいけない」はなぜ?→防衛省OBの解説が「なるほど」だった!Photo:Yamaguchi Haruyoshi/Gettyimages

「船の上で口笛を吹いてはいけない」。海上自衛隊には、一般市民にとっては不可解なルールが存在する。さらに、艦内設備の一部を「自衛官が自腹で維持している」というから驚きだ。その知られざる実態を、航空自衛隊のルールやタブーと合わせてお届けする。(安全保障ジャーナリスト、セキュリティーコンサルタント 吉永ケンジ)

※本記事は【前後編の後編】です。「ヒゲ禁止」などの陸上自衛隊の“鬼ルール”について解説した前編は以下のリンクからお読みいただけます。
「雨の日も傘を差してはいけない」自衛隊の鬼ルールはなぜ?→「そりゃそうだ」と思える納得の理由

海上自衛官が
口笛を吹いてはいけないワケ

 どんな組織にもルールが存在する。だが、自衛隊のそれは一般市民にあまり知られていない。中身を見てみると、長年の伝統と化し、現役の自衛官すら理由を知らずに遵守しているものもある。

 後編となる本稿では、海上自衛隊・航空自衛隊の「オモシロ規則」を紹介していこう。

 護衛艦などの艦艇勤務が長い海上自衛官は「海上自衛隊は帆船時代からの迷信や伝統だらけですよ」と笑う。そうした文化の一つが、「艦内では口笛を吹いてはいけない」という独自ルールだ。

 海上自衛官は「古くからの慣習ですね。昔から『口笛は時化(しけ)や魔物を呼ぶ』と言われています」と、その由来を明かす。ただ、その全てが迷信に由来するものではなく、楽器の「サイドパイプ」と口笛の音を混合しやすいことから禁じられている側面もある。 

 サイドパイプとは、全長10センチ程度の小さな「号笛(ごうてき)」だ。陸海空自衛隊では共通して、号令や命令の伝達のために「ラッパ」を奏でているが、サイドパイプを併用するのは海自だけである(※)。

※楽器や音楽についての詳細は、本連載の過去記事「『なぜ自衛隊に音楽隊が必要?』『音楽隊も訓練するの』→防衛省OBの答えが的確すぎた!」を参照。

「海自では、艦長や司令官が艦艇に乗艦する際に『舷門送迎』という儀式を行い、当番がサイドパイプを奏でて独特な音色を流します。この文化は、帆船時代に酔っ払った艦長が自分の船を間違えず、舷梯(げんてい)から海に落っこちないように誘導していた名残だと言われます」(冒頭の海上自衛官、以下同)

 こうした伝統だけでなく体制面においても、海上自衛隊は帆船時代の文化を色濃く受け継いでいる。特に艦内の編成や階級・役職などは、大航海時代の帆船に由来することが多い。他国の「海軍大佐」に相当する1等海佐を英語で「Captain(キャプテン)」と表記するのは、その証左である。

 だが、海上自衛隊のルールの中には、西洋文化の影響を受けたものだけでなく、日本独自の文化に由来するものもある。

 古くからの伝統を守るために、自衛官が私費で維持している船内設備があるというが、その正体とは――。