【年末年始】遺言が無効になった理由ワースト3…超意外な1位とは?
本連載は、相続に関する法律や税金の基本から、相続争いの裁判例、税務調査で見られるポイントを学ぶものです。著者は相続専門税理士の橘慶太氏で、相談実績は5000人超。『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』を出版し、遺言書、相続税・贈与税、不動産、税務調査、各種手続といった観点から相続の現実を伝えています。2024年から始まった「贈与税の新ルール」等、相続の最新トレンドを聞きました。

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遺言が無効になった理由ワースト3…超意外な1位とは?

 本日は「相続と遺言」についてお話しします。年末年始、相続について家族で話し合う際、ぜひ参考にしてください。

 せっかく遺言を書いても、形式上の不備や書き方のまずさで無効になってしまったり、かえって争いの火種になってしまったりしては本末転倒です。実際、現場では「書いたのに無効」「残したつもりが混乱のもとになった」というケースがあとを絶ちません。この記事では、実務でよく見られる「遺言が無効になる原因」をワースト3のかたちでご紹介します。自分や家族が同じ失敗をしないためにも、ぜひ押さえておきたいポイントばかりです。

第3位:「太郎に相続させる」――太郎って誰?

 まず注意したいのが、相続させる相手の書き方です。たとえば「太郎に遺贈する」とだけ書いてしまうと、読む側からすれば「たぶん長男の太郎のことだろう」と思うものの、太郎という名前の人は世の中にたくさんいます。家族のなかに「太郎」が複数いたり、友人や知人に同じ名前の人がいた場合、「それは自分のことではなく、あの人のことだ」と主張される可能性もゼロではありません。

 相続人同士の関係が良好であればスムーズに進む話も、関係がこじれている場合は一転して争いに発展してしまいます。こうした誤解を避けるには、フルネームに加えて生年月日や「長男」「次女」といった続柄まで書いておくと安心です。「令和◯年◯月◯日生まれの長男◯◯太郎に相続させる」と書いてあれば、その人物が誰なのかについて後から争いになることはまずありません。ほんの一手間ですが、トラブル予防の効果は絶大です。

第2位:資産の中身がズレる

 金融資産の書き方も、実務では悩ましいところです。とくに株式や投資信託、ETF、仮想通貨などは、遺言を書いたあとで銘柄が変わったり、残高が増減したりするのが当たり前です。「◯◯株式会社の株式を長女に」「△△ファンドを次男に」と銘柄ごとに細かく指定してしまうと、遺言の内容と現実がズレていき、場合によっては書き直しが必要になってしまいます。

 実際、銘柄がなくなってしまったり、金額が思ったより減っていたりすることで、遺言が空振りになってしまうケースも少なくありません。そこでおすすめなのが、「証券会社ごとにくくる」という方法です。「◯◯証券に預けている金融資産は長男に」「△△証券に預けている金融資産は次男に」といった具合に書いておけば、中身の銘柄が多少入れ替わっても、遺言そのものはそのまま生かすことができます。さらに、「◯◯証券の1000万円を~」と金額を書き込んでしまうと、残高が動くたびに現実とのズレが生じるため、金額ではなく「口座単位」で指定しておく方が、あとあとの手続きも楽になります。

第1位:形式ミス

 そして、もっとも多く、もったいないのがこちら。「きちんと書いたつもりだったのに無効になっていた」というケースです。理由は、ずばり「形式ミス」。とくに自筆証書遺言においては、これが非常に多く見られます。

 たとえば日付が抜けていたり、最後に押すべき印鑑がなかったり、内容を訂正するときのルールを守れていなかったりすると、それだけで遺言が無効と判断されてしまうことがあります。書いてある内容が正しくても、「書き方がまずかった」だけで効力が認められない。これは本当に残念な話です。

 訂正のルールも思った以上に細かく、「ここは違うな」と思った部分に二重線を引いて、横に名前を書くだけでは足りません。「何行目のどの文字をどう訂正したのか」を遺言書のどこかに明記しなければならないという決まりがあります。実務で「これは無効になってしまうな」という例は、決して珍しくありません。

 こうした形式的なミスを避けたいのであれば、公証人役場で作る公正証書遺言にしておくのが安心です。費用はかかりますが、公証人というプロが内容と形式をチェックしてくれるため、「書いたのに無効だった」という事態をほぼ防げますし、原本が公証人役場に保管されるので、紛失や改ざんのリスクも格段に下がります。

想いを書き添えるという最後の工夫

 そしてもうひとつ、ぜひ取り入れてほしいのが「付言事項」です。付言事項とは、遺言の最後に添える、お手紙のようなメッセージ欄のこと。ここに書かれた内容そのものには法律上の効力はありませんが、実務上はとても大きな意味を持ちます。

 遺言内容というのは、多くの場合どうしてもアンバランスになりがちです。同居して長年介護を担ってくれた子どもに自宅を相続させる、家業を継いでいる子に多めに財産を渡す、といった判断は合理的ですが、金額だけを見れば「不公平だ」と受け取られてしまう可能性もあります。そこで、付言事項として「なぜこのような分け方をしたのか」という理由や、「それぞれの子に対してどんな感謝や思いがあるのか」「皆で争わずに仲良く過ごしてほしい」という気持ちを書き残しておくと、受け取る側の納得感がまったく違ってきます。

 また、遺言をめぐるトラブルでよくあるのが、「本当に本人の意思だったのか」という点をめぐる争いです。「誰かに書かされたのではないか」「特定の相続人が有利になるように、無理やり書かせたのではないか」と疑われることは決して珍しくありません。そんなとき、具体的な背景や考え方が付言事項として残っていれば、「自分でよく考えたうえでこの遺産分けを選んだのだ」という強力な裏付けになります。

(本原稿は『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』の一部抜粋・加筆を行ったものです)