この問題は、実は人間の組織でもよく起きます。目的が曖昧なプロジェクトほど、作業が膨らみ、タスクが増殖します。エージェントの動作が安定しない原因の多くは、「目的」「権限」「範囲」が曖昧なまま設定されていることにあります。
これら3つの壁が示しているのは、AIの性能不足ではありません。仕事の構造が曖昧なときにAIは迷子になるという本質です。エージェントを活用するには、目的、役割、情報、優先順位を明確にし、人間の暗黙知に依存しない“構造化された職場”を作る必要があります。CMUの実験は、その前提が整っていない環境では、AIが容易に行き詰まることを示したのです。
「非属人化」と「役割の明確化」が
エージェント導入の成否を分ける
なぜAIエージェントはつまずくのか。それは企業の多くが「属人性」と「暗黙知」を前提にしているからです。その傾向は、従来型産業や日本企業の多くで特に目立ちます。
私が以前働いていた外資系テック企業では「人は入れ替わるもの」ということを前提に、業務が徹底的に仕組み化され、ドキュメントや判断基準が可能な限り明文化されていました。これは実は「空気を読めない」AIエージェントが動きやすい環境そのものです。
一方、日本企業の多くは人材の流動性が低いため、知識やノウハウが個人に蓄積しやすく、仕事が属人化しがちです。また「ジョブ型」雇用になっておらず、役割定義も曖昧です。エージェントを導入するには、業務範囲、必要な情報、権限の範囲を明確にし、「誰が・何を・どこまでやるか」という業務の定義が不可欠です。しかし、人間側の定義さえ曖昧な状態では、AIに仕事を任せることは不可能です。これは技術の問題ではなく、組織の構造、設計の問題なのです。







