もちろん、業務を非属人化するだけでは「人間の仕事をエージェントに置き換える」話で終わってしまいます。本来、人間が担うべき領域はその先にあります。業務を仕組み化した上で、人間には“その時々で最善を判断し、やり遂げる力”が求められます。これは一見属人的に見えるかもしれませんが、だからこそ価値があり、エージェントには代替が難しい部分です。整理された構造の上で状況に応じて判断し、責任をもって行動できること。これこそが、人間が発揮すべき新しい役割だと考えます。

AIエージェント時代に
必要な「構造をつくる力」とは

 CMUの実験が示すのは、「現在のAIエージェントは万能ではない」という単純な話ではありません。エージェントが動けない理由の多くが、“AI側の限界”ではなく“人間側の環境設計の曖昧さ”にあるという本質です。文脈が共有されていなかったり、役割が不明確であったり、情報が分断されていたりする環境では、人間でも仕事は停滞します。同じ構造が、よりストレートな形でAIにも表れるだけなのです。

 逆に、目的や役割が明確で、情報が整理され、判断基準が共有されている環境では、エージェントははるかに動きやすくなります。しかし、日本企業の多くは暗黙知や文脈依存を前提にしているため、そのままAIを導入しても成果が出にくい構造になっています。

 AIエージェント時代に問われるのは、技術の向上よりもむしろ、組織の側がどこまで“エージェントが動ける構造”を作れるかどうかです。エージェントを使いこなせる企業とそうでない企業の差は、技術格差ではなく、構造格差になっていくでしょう。2026年は、この「構造をつくる力」が企業にとって重要な競争力になる年だと私は考えています。

(クライス&カンパニー顧問/Tably代表 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)