他社と比較するだけでは勝てない、製品に「新機能」を追加することが競争力を奪う本当の理由機能を増やせば、製品は売れるのだろうか?(写真はイメージです) Photo:PIXTA

「競合に追随して機能を増やせば売れるのか」マイクロソフトやグーグルでエンジニアとして活躍し、複数の企業で技術顧問を務める及川卓也氏が問う、比較表では見えない競争の本質とは。持続的に市場で勝ち続け、真の差別化を生むための戦略について解説する。

日本企業に根強い「機能追従」の発想と
「比較表文化」の限界

 かなり昔のことになりますが、外資系企業での経験が長い私に「参考になる話を聞きたい」とお声がけいただき、ある家電メーカーの方と会食をする機会がありました。その席で、ふとしたきっかけから「もし競合が新しい機能を搭載してきたら、御社ではどう対応するのですか」と尋ねてみたのです。返ってきた答えは「まず知財的に問題がないか確認します。問題がなければ、次の商戦に間に合うように同じ機能を自社製品に搭載します」というものでした。

 私は驚きながらも、少し強めに「それで本当に勝てるのですか? 売れるのですか?」と問い返していました。もしかすると「それでは駄目ですよ!」とまで言ったかもしれません。

 消費者にとっては、スペック表に新しい項目が1つ増えたところで、購買意欲が高まるとは限りません。むしろ、使わない機能を無駄に感じることさえあります。企業側の「機能追従」の発想と、消費者の実感には大きな溝があることを、その場であらためて実感したのです。

 このときの会話が示しているのは、日本企業に根強く存在する「比較表文化」の限界です。競合が打ち出した新しい機能をただまねて表の差分を埋める――その発想のままでは、持続的に市場で勝ち続けることはできません。

発見したのは「課題」か「解決策」か
競合理解に必要な視点

 優れたプロダクトとは何か――この問いに答える際、私は常に「課題の発見」と「解決策の発見」という2つの側面を重視します。市場で長く支持されるプロダクトは、まだ顧客自身も明確に言葉にできていない新しい課題を掘り起こしている、または課題に対してこれまでにない解決策を提示している、そのいずれか、もしくは両方を備えているものです。