予備校で、生徒に「時間を返してほしい」と言われた挫折
偉そうなことを言っていますが、かつての私は、典型的な「説明が下手な人間」でした。
キャリアの原点である駿台予備学校の講師になりたての頃のことです。当時の私は、「人気講師になりたい」「生徒にすごいと思われたい」という一心で、難しい専門用語を多用し、知識をこれでもかと詰め込んだ講義をしていました。
自分では「完璧な説明」をしたつもりでした。知識量にはそれなりに自信がありましたし、講義の準備も怠りませんでした。しかし、生徒からの講義アンケートの結果は散々なものでした。
「つまらない」「ウケ狙いが痛い」「自分に酔っているだけ」
そして極めつきは、「時間を返してほしい」という言葉。
予備校講師は実力社会です。
「このままではクビになる……」
そう追い詰められた私が、藁にもすがる思いで学び直したのが、「認知科学」という学問でした。人間の頭の働きや情報処理の仕組みを学ぶ中で、私は自分の大きな過ちに気づいたのです。
「自己中心性バイアス」という落とし穴
その過ちとは、私は「相手(生徒)がどう受け取るか」はそっちのけで、「話している自分が相手からどう思われているのか?」ばかり考えていたのです。これは認知科学でいう「自己中心性バイアス」と呼ばれる思考のクセです。
「自分がわかっていることは、相手もわかっているはずだ」「相手ではなく、自分のことに集中してしまう」。この無意識の思い込みが、私と生徒の間に巨大な壁を作っていたのです。
説明とは、相手の頭に「棚」を作ること
では、どうすれば「自分中心」から脱却し、相手に伝わる説明ができるようになるのでしょうか。
ここで鍵となるのが、認知科学の「スキーマ」という概念です。
スキーマとは、私たちが過去の経験や知識を通じて作り上げてきた「知識の枠組み」、いわば頭の中にある「整理棚」のことです。
人は新しい情報を聞いたとき、自分の頭の中にある既存の「棚(スキーマ)」のどこに当てはまるかを探し、整理して理解しようとします。
例えば、「花」という言葉一つとっても、ある人は「恋人へのプレゼント(恋愛のスキーマ)」をイメージし、ある人は「仏壇の菊(供養のスキーマ)」を連想します。
相手がどんな棚を持っているか想像せずに話すのは、相手の整理棚のサイズも場所も確認せずに、ボールを無造作に投げつけるようなものです。これでは、相手は受け取れません。







