「いま、被害者になるより、加害者になるほうがずっと怖い」
『強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の 弱さ考』を読んだ、ライターでメディア編集長の佐藤友美(さとゆみ)さんはそう語ります。
この本は、おもに能力主義・成果主義・タイパ思考などの資本主義社会のしくみや空気に「しんどさ」を抱える人のために書かれた本で、実際に「救われた」という感想がたくさん寄せられています。
しかし、この記事は、「別にしんどくない人」がこの本を読んだ感想です。(編集/ダイヤモンド社・今野良介)
Photo: Adobe Stock
返事が来ない
昨年、仕事相手が自殺をした。30歳だった。
私のターンの仕事が終わり、そのあと1ヶ月ほどは彼のターンだったのだが、しばらく連絡が途絶えていた。
訃報を知ったのは「あれ? そういえばあの件、返事きていないな」と、彼の会社に問い合わせたときだった。担当者はひたすら恐縮して、「すみません、こちらから連絡しなくてはいけなかったのに」と平謝りする。
目の付け所が鋭く、時代の空気を掴むのがうまい人だった。数々のビッグプロジェクトを成功させて独立起業した。冷静でクレバーな人で、あちこちから頼られ、とにかく毎日忙しそうだった。
進行中のプロジェクトをどうするか相談するため、私は亡くなった彼の共同経営者だった方とオンラインでミーティングをした。画面の中のその人は、数ヶ月前とは別人のようにやつれていた。
「亡くなる2時間前まで、僕、一緒に打ち合わせしていたんです。そんなそぶり、全然なかったんです」
彼は下を向く。あの会議で自分が何か違うことを言っていたら、事態は変わっていたのだろうか。自分が発した言葉のどれかが引き金になったのではないだろうかと考えるのだろう。
逝った彼も辛かっただろう。しかし、残された者も辛い。
「あなたのせいではないよ」と、きっと何度言われても気休めにしかならないであろう言葉を、私は飲み込んだ。そしてzoomを切ったあと、突然ゾッとした。
まさか、私のせいではないよね?
私は大慌てで彼と最後に会話したときのことを思い出す。たしか私は、「当初よりだいぶスケジュールが押していますけど、大丈夫そうですか?」と、彼に尋ねた。あのひと言が、彼を追い詰めたりしなかっただろうか。
もしも彼の命がコップだったとしたら。そういうちょっとしたひと言がコップの中に少しずつ溜まって、決壊したのだとしたら。それが最後の一滴ではなかったにしても、コップの中の水を増やしたのは、私のひと言だったかもしれない。
怖い。自分の下まぶたがピクピクし始めた。それはしばらく止まらなかった。
私はもうすぐ50歳になる。つい最近まで、人生において最も怖いことは、親が病気になることだったり、子どもが交通事故に遭ったりすることだった。
でも、今、それと同じくらい怖いのは、私の加害だ。
自分が誰かを加害しないか。それが一番怖い。
フリーライターの私は、長いこと編集者からもらう「受注」仕事をしていればよかった。気にすべきことは、良い原稿をあげることと、納期を守ることくらいだった。でもいま私は、メディアの編集長職をはじめ、多くのライターさんの原稿をまとめる「発注」側になった。
私の仕事の頼み方や、修正の依頼や、スケジュール管理が、誰かの「書く気持ち」をクラッシュしてしまったら?
書く気持ちどころか、人生をクラッシュしてしまったら?
アホほど赤字をくらって徹夜で原稿を修正していた時よりも、人の原稿に赤字を入れる今のほうがずっと怖い。毎日綱渡りをしている気がする。
いま、私は、パワハラをされることよりも、してしまうことが怖い。
人間関係に病むことよりも、病ませてしまうことが怖い。
被害者になるより、加害者になるほうがずっと怖い。
『弱さ考』は、そういう自分の保身のために手にとった。
本の「はじめに」には、こんな言葉が書かれている。
今まさに弱りかけているあなたへ。
弱った人をケアしているあなたへ。
理解されづらいしんどさを抱え、なんとか日々をやりすごしているあなたへ。
強くなりきることも、弱さに開き直ることもできずにいる、すべてのビジネスパーソンへ。
私はどれにも当てはまらない。
だけど、この本は、私のための本でもあると思った。
人はどんなときに病むのか。
なぜ昔より病む人が増えているのか。
私が誰かを病ませるとしたら、どんなときなのか。
この本を読めてよかったと思う。それは「なるほど! これでパワハラで訴えられないための対策は万全!」とかじゃない。病む人も、そうじゃない人も、みんな同じ線上にいるんだとわかったことが、一番よかった。
「加害してしまう自分」が怖い人は、私以外にもいるような気がしている。
「はじめに」に書かれたどのケースにも当てはまらない人に。
今年、この本を、おすすめします。
(※本記事は、書籍『強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の 弱さ考』についての書き下ろし記事です)
書籍ライターとして、ビジネス書、実用書、教育書等のライティングを担当する一方、独自の切り口で、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆している。さとゆみビジネスライティングゼミ主宰。卒ゼミ生によるメディア『CORECOLOR』編集長。著書に『書く仕事がしたい』(CEメディアハウス)、子育てエッセイ『ママはキミと一緒にオトナになる』(小学館)、『女の運命は髪で変わる』(サンマーク出版)など。1976年北海道知床半島生まれ。





