「言いたいけど言えなかったことをバンバン言語化してくれる本」
そんな読者の声が多数集まるのが、NewsPicksパブリッシング創刊編集長・渾身の初著書『強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の 弱さ考』だ。
本書から、「自己PRの違和感」を晴らしてくれる部分を紹介する。(構成/ダイヤモンド社・今野良介)
自己PRという物語
僕たちは、自分の過去を振り返って人に説明するとき、必ずそこに因果関係を設定する。
たとえば、
→努力の甲斐あってささやかながら成果に恵まれ、
→その結果IT系スタートアップから声をかけられ事業部の立ち上げを任されたのだが、
→気負いからがんばりすぎて心身を壊し障害を発症し、
→その経験からさまざまなことを考え、こうして本を書いている。
このような「自己紹介」や自己PRは、誰が聞いてもわかりやすい物語になるように過去を取捨選択する作業だ。
僕たちは「語る」ことで、自分の「物語」をつくりあげていく。
脳は、ありとあらゆる過去のできごとの中から、現在の自分がいま「こうであること」を説明するのに利用できる部分だけを丁寧にピックアップして、利用できない部分についてはものの見事に無視するのだ。

世界は複雑だ。だけど、人間の脳は世界を複雑なまま捉えられない。
だから語る側も聞く側も、ついシンプルな物語に落とし込んでしまう。人間は物語化せずに物事を認識したり、記憶したりすることが苦手だ。
偶然に満ちたこの世界を「聞いていて違和感のない物語」に変換し、そのプロセスの中で「多元的な原因」を「一元的な原因」に置き換えてしまうのは、ヒトの性であり、脳の限界とも言える。
脳は、物語的に、シンプルに原因と結果を対応させることでしか世界を理解できない。
ただ、脳が物語的に物事を理解するからといって、世界そのものも物語的だとはかぎらない。むしろ、明確に物語的じゃない。世界は、説明に組み込めない偶然性に満ちていて、予測なんて不可能なのだ。
うつになってわかったこと
健康は、「病の不在」としてしか驚けない。一度「失う」をくぐり抜けなければ、本当に大事なことに「驚く」ことはできない。僕は実体験を通じてそう感じた。
当たり前のように、さも必然かのように語ってきた自分の過去の物語が、強固に見えた因果関係がぼやけていく。
「こうしたから、こうなった」という必然性の物語から、「こうでなかったかもしれないのに、なぜかこうある」という偶然性の物語へと身を移して、僕はやっと腹からわかった。
「ひとつの原因」に「ひとつの結果」が対応するような一元的な因果関係なんて、嘘っぱちなのだ。
(※本記事は、書籍『強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の 弱さ考』の内容の一部を編集して掲載したものです)

1988年大阪生まれ。京都大学総合人間学部卒業。ディスカヴァー・トゥエンティワン、ダイヤモンド社を経て2019年、ソーシャル経済メディアNewsPicksにて書籍レーベル「NewsPicksパブリッシング」を立ち上げ創刊編集長を務めた。代表的な担当書に中室牧子『学力の経済学』、マシュー・サイド『失敗の科学』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)、北野唯我『転職の思考法』(ダイヤモンド社)、安宅和人『シン・ニホン』(NewsPicksパブリッシング)などがある。2025年、株式会社問い読を共同創業。