店主がこの土地に
お店を開いた理由
店主の坂野洋さんはぱっと見は鯔背。よく通る美声の持ち主で、注文したときの
「はい」
が、昭和の洋画の吹き替えのように、物凄く心地良く響く。元々は東京は中野の出身。10代からこの道に入り、和食店やホテルで仕事をしてきた。盛りつけの美しさは、そうした経歴によるものなのだろう。
ご両親が、今のお店があるあたりの出身とのことで、知人からこの場所を紹介され1989年に開業した。以来33年の歴史をかさねてきた。
「開業の時からいらしてくれているお客様がおおぜいいるんですよ」
『ロビンソン酒場漂流記』(加藤ジャンプ、新潮社)
というから、いかに地元に愛されているのかがよくわかる。時々常連さん達と旅行にも行っているそうだ。それにしても、この場所で店を開くのは勇気がいったのではないかと問うと、
「ううん、まあ、でもお店が少ないから、逆になんとかなるんじゃないかなあって思って」
と言うが、それは自信があってこそ。これだけの腕前とセンスがあったから、こうして愛されてきたのだろう。
かつては、板前さんも雇っていたそうだが皆独立。2階の座敷もやめて、1階のカウンターと小上がりを坂野さんとお手伝いの女性とで切り盛りしている。いつの間にかいっぱいになった店は、ひっきりなしに肴と酒が運ばれていく。最高だ。
帰り道、とっぷりと暗くなり、Mさんも私も自然とまっすぐ武蔵溝ノ口駅へと足が向かっていた。夜の霊園は、また今度来たときにとっておく。







