「経験が私に教えたものは、第一に、マネジメントには基本とすべきもの、原則とすべきものがあるということだった。第二に、しかし、それらの基本と原則は、それぞれの企業、政府機関、NPOの置かれた国、文化、状況に応じて適用していかなければならないということだった。そして第三に、もう一つの、しかもきわめて重要な『しかし』があった。それは、いかに余儀なく見えようとも、またいかに風潮になっていようとも、基本と原則に反するものは、例外なく、時を経ず破綻するという事実だった」(『[エッセンシャル版]マネジメント』〈日本の読者へ〉)
ところがドラッカーは、そのマネジメントにおいて致命的に重要な基本と原則が、どこにも明示されていないことに気づかされた。待っていても誰かがまとめてくれる気配はない。
そこで、彼自身が書いた本が、『マネジメント─課題、責任、実践』だった。名著『現代の経営』を書いてから20年後の1973年のことだった。
マネジメントの基本と原則についてのものでありながら、読む者を興奮させるという不思議な本だった。事実、これを読んで事業に成功したと回顧する経営者は多い。米国の証券会社エドワード・ジョーンズなどはこの本を読んで何度も手紙を書き、ドラッカーのコンサルティングを受けることに成功し、大成長を遂げたという。
『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』の主人公・川島みなみちゃんが手にした本が、その抄訳である『エッセンシャル版』だった。
ドラッカーは、その基本と原則を再び求められているのが日本の社会、政治、経済だとした。われわれは、今こそ基本と原則に戻り、あくまでも日本のものであって、しかも新しい状況に応じたシステムを構築しなければならない。
「日本のシステムは、他のいかなる国のものよりも大きな成果をあげた。しかし、そしてまさにそのゆえに、今日そのシステムが危機に瀕している。それらの多くは放棄して新たなものを採用しなければならない。あるいは徹底的な検討のもとに再設計しなければならない。今日の経済的、社会的な行き詰まりが要求しているものがこれである」(『[エッセンシャル版]マネジメント』)