「あなたみたいな人には、私の生きづらさはわからないと思うんです」
ライターでメディア編集長の佐藤友美(さとゆみ)さんは、ある人からそう言われたことがあると言います。
『強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の 弱さ考』という本があります。この本は、NewsPicksパブリッシング創刊編集長が、能力主義・成果主義・タイパ思考などの資本主義社会のしくみや空気に「しんどさ」を抱える人のために書いた本です。しかし佐藤さんは、「生きづらくない人」にこそこの本を読む意義があると言います。(編集/ダイヤモンド社・今野良介)

言いにくいんですけど、「生きづらくない」のは悪いことなんですか?Photo: Adobe Stock

「エリートコンサルの『弱者アピール』に思えるんですよね」

学生時代の後輩に、全国を飛び回るキャリアコンサルタントがいる。

久しぶりに会って飲んだとき、「最近よく頼まれる企業研修のテーマ」を聞いたら、「キャリア自律」だと話していた。

キャリア自律!!!

「企業は一生あなたたちの面倒を見るわけではありませんよ。ちゃんと自分で自分のキャリアを形成していってくださいね」という言外のメッセージを感じる。なかなかシビアな時代だ、と思う。

その彼女に「『弱さ考』って本、読んだ?」と聞いた。NewsPicksパブリッシング創刊編集長が鬱になって考えたことをまとめた1冊だ。私はこの本を読んで「働くこと」についてずいぶん考えた。

「あー、その本まだ読んでないんです」と、彼女は答える。

そして「もちろん知ってるんですけれど、ちょっと引っかかりがあって」と続けた。

「引っかかり?」と聞くと、「これ、うまく説明できるかわからないんですけれど……」と前置きしながら、彼女は話してくれた。

最近、人材コンサルタントの中に、

「自分はかつてバリバリ働く企業戦士だった。だけど、心を病んで働き方を見直すようになった。ポンコツな自分だからこそ、今はコンサルタントとして、あなたたちに寄り添ったアドバイスができる」

と、話す人が増えてきたのだという。

「なんか、それが定型文になっているような感じなんです。『自分にも弱いところがあるんですよー。みなさんの気持ちもわかりますよー』って。でもそれって、しょせんエリートコンサルの『弱者アピール』に思えるんですよね

だから、「NewsPicksパブリッシング創刊編集長」の本も、そういう話かと思って敬遠していたのだと言う。

ああああああああ。
なるほどすぎる。

『弱さ考』はそういうタイプの本では全然ないけれど、それはいったん置いといて。

私がおもしろいと思ったのは、コンサルの人たちが「自分も弱い人間なので……」とアピールしたほうが、仕事に有利だと考えているであろうことだった。

「24時間働けますか?」が正義だった時代がある。調べたら平成元年のCMだ。そこから約40年の間に、時代はここまで変わった。

いま「24時間働けますか?」と聞く企業があったら、即、訴えられるだろう。CMも炎上するだろう。

それだけじゃない。「(私は)24時間(バリバリ)働けちゃうんですよね」とか「(私は)できるならば24時間(バリバリ)働きたいんですよね」と言うこと自体も、はばかられる時代になっている。

「私の生きづらさはわからないと思うんです」

そういえば、以前、ブロガーさん向けに文章の書き方講座をしたときにこう言われた。

「さとゆみさんみたいに、元気で明るくて悩みのなさそうな人には、私のような人間の生きづらさはわからないと思うんです」

そうか。「明るさ」や「悩みのなさ」は、この現代において「罪」になり得るのか。

いや、「罪」は言い過ぎでも「鈍感」の象徴になるのかと思った。

その1週間前、私は子連れ離婚をしたばかりで(誰にも話していなかった)、この日の午前中、慰謝料と養育費にやっと決着がついたところだった。そういう屈託を前面に押し出してアピールしたほうが「共感」されたり「信頼」されたりするのかしら、などと考えた。

なんだか、「生きづらい彼女」の「下から目線」に、ぶった斬られたような気がした日だった。

「生きづらい」彼女は、生きづらかろう。

でも、「生きづらくない」私も、なんだか最近「生きづらい」。

『弱さ考』にはこうある。

誰かが生きやすくなった世界は、きっと誰かが生きづらい。
(『強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の 弱さ考』P139より)

だけど、そんなふうに誰かが順ぐりで我慢しなきゃいけないのって、なんか変。もうちょっと、みんなが少しずつ楽になれる方法はないのかな。

次の日の夜、くだんのキャリコンの彼女から連絡があった。「さとゆみさん、『弱さ考』読んだ! いま、読んでよかったー!」と書かれていた。昨日たくさん話したはずなのに、私たちはまたひとしきり、メッセで話をした。

ああ、この本を真ん中に、いろんな人と話したいなと思った。
生きづらい人も、生きづらくない人も。
生きづらくないことが、なんだか悪いことをしているような気になる人も。

私たちは同じ根っこから生えた同じ毒をくらった亜種なんじゃないかな。そんなことを考えられる本なんだよなあ、って思う。

(※本記事は、書籍『強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の 弱さ考』についての書き下ろし記事です)

佐藤友美(さとゆみ)

書籍ライターとして、ビジネス書、実用書、教育書等のライティングを担当する一方、独自の切り口で、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆している。さとゆみビジネスライティングゼミ主宰。卒ゼミ生によるメディア『CORECOLOR』編集長。著書に『書く仕事がしたい』(CEメディアハウス)、子育てエッセイ『ママはキミと一緒にオトナになる』(小学館)、『女の運命は髪で変わる』(サンマーク出版)など。1976年北海道知床半島生まれ。