『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社
児童精神科医による大ヒット書籍のコミカライズ版として、くらげバンチ(新潮社)で連載されている(原作/宮口幸治、漫画/鈴木マサカズ)。今回は、第2話「田町雪人との出会い」から、原作の立命館大学教授で児童精神科医の宮口幸治氏が漫画に描けなかったエピソードを紹介する。
非行少年が加害者でもあり、弱者でもある可能性
某県の少年院で精神医療業務を勤める精神科医・六麦克彦は、問題を起こした非行少年たちにある法則を発見しました。それは、「ケーキを3等分する」ことができないことでした。
第2話では第1話に出てきた田町雪人(仮名)が少年院に入院してくるところから始まります。
所持品検査や身体検査などを経て、寮に移動し法務教官から寮生活の説明を受けますが、生活に慣れ集団寮に移るまで、2週間ほど単独室で過ごします。同時に入院時の簡単な内科診察も行われます。精神科診察は時間がかかるため、単独室にいる2週間の間に行われることが多いです。
精神科診察では主人公の六麦医師が田町少年の診察を行う前に、少年簿に目を通しています。
少年簿には少年の生育歴や生活歴、家族背景、犯行の経緯などの他に、少年鑑別所で実施された心理検査の結果や鑑別所での動静記録など少年に関する情報が細かく記されています。
私も長年、精神科診察を行ってきましたが、診察前に少年簿にじっくりと目を通してきました。そこに記載されている非行内容に加え、家庭環境や性格特性、犯行動機などを読み進めていくと、なぜ彼らが非行に走ったかが少しずつ見えてきます。
さらに、少年の診察結果と知能指数IQ、つまり発達障害や知的障害の診断名が加わると、身勝手で得体の知れない加害者である非行少年たちが、突如として弱者に変わり、被害者でもあったことが理解されるのです。
田町少年はIQが68の設定です。知的障害の中でも軽度に相当します。「軽度」であっても会話が噛み合わない的外れな受け答えや丸いケーキを3等分ができないということがあっても不思議ではありません。
また今回は「Reyの複雑図形」という模写課題のシーンから始まっているのも特徴です。
これは主に頭部外傷患者の視空間認知を評価する検査として、1940年代に作られた検査ですが、今では子どもの視覚認知や実行機能などの評価にも使われています。
実は、私が少年院勤務を始めて最初に驚いたのは、ケーキの3等分ができないことではなく、少年たちが描いたReyの図形のいびつな形でした。模写の課題に与えた図形とは、全く違うものだったのです。
どう見たらいびつな形になってしまうのか。与えた図がそのようにしか見えないなら、世の中のこともゆがんで見えている可能性がある。見る力がこれだけ弱かったら、聞く力も弱いであろう。だから我々が彼らに伝えたいことが伝わっていない可能性があるのではないか。
ひょっとしてそれが彼らの非行の原因のひとつになっているのではないか。もしそうであれば、このいびつさを何とかしないと彼らの非行を治せないと感じたのでした。
改善するためには弱いところを鍛えるしかない――。試行錯誤の結果、生まれたのがコグトレ=認知機能強化トレーニングでした。
原作者である宮口幸治は、児童精神科医として、実際に医療少年院の勤務歴があります。その経験から書いた『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)をマンガ化しました。マンガの続きは「ケーキの切れない非行少年たち」でチェック!
『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社
『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社
『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社






