空港でキャリーケースを手にする2人の女性写真はイメージです Photo:PIXTA

世界的に交通インフラが整備され、誰もが自由に国境を越えて旅行できる時代になった。しかし実際には、年収によって海外渡航経験の有無に大きな格差があるのが現実だ。日本人の観光・海外渡航データから浮かび上がる“移動格差”の実態を読み解く。※本稿は、社会学者の伊藤将人『移動と階級』(講談社)の一部を抜粋・編集したものです。

観光客、移民、難民を含め
国境を越える移動者が増加

「21世紀は観光の時代である」というスローガンは、学術と産業の両方で多用されてきた。いまや国境を越える観光客の増加は全世界的な傾向であり、観光産業は21世紀の最も有望な成長産業の1つであるともいわれている。

 学術的にも、人文社会科学が捉えようとしてきた「社会的なもの」は、今や「観光」にこそ明白に現れると言われており(遠藤:2017)、ジョン・アーリとヨーナス・ラースンの『観光のまなざし』や哲学者の東浩紀による『観光客の哲学』、社会学者の遠藤英樹による『ツーリズム・モビリティーズ』など、観光・観光客という概念を鍵に現代社会を思考する試みも多くなされている。資本主義、グローバル化、消費社会、そして移動、観光には現代社会を特徴づける要素が詰まっているのである。

 実際、いま世界には推定12億8600万人の国際観光客(宿泊客)がいる。さらに、観光産業は世界のGDPの9~10%を占めるほどになっている。

 そんななか、猛威をふるった新型コロナは観光業を壊滅的な状況に陥れた。今では、ほぼコロナ禍前の水準まで観光産業は復活したが、あの経験を忘れることはできない。