AIが台頭し、社会の変化はますます激しくなっている。そんななか、昔のような「テストでいい点数を取れる人」よりも、「課題を見つけ、解決し、社会のなかで生き抜いていける人」のほうが、高く評価されるようになってきた。この社会の変化が、わかりやすい形で反映されているのが「大学入試」だ。
推薦入試専門塾リザプロ代表の孫辰洋氏は、『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』のなかで、「合格にたどり着いた生徒には『点数では測れないが大学や社会で高く評価される資質』が共通している」と語る。本書の内容をもとに、その資質の一つである「巻き込み力」について解説する。(文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

勉強をしている女子高生Photo: Adobe Stock

評価軸が大きく変わりつつある大学入試

 受験を終えて久しい筆者はよく知らなかったのだが、現代の大学受験はかつての偏差値や点数を主体としたものから大きく変わっているそうだ。

 学力のみを問う一般入試の割合は減少し、総合型選抜(旧AO入試)などを含めた「年内入試」と呼ばれる入試形態が、全体の半分以上を占めている。

 この流れは一部の私立大学だけでなく、国公立大学でも同様だ。

 なかには、将来的に総合型選抜の割合を100%にすると宣言している大学もあるという。難関国立大の推薦・推薦型選抜でも同様の傾向にあるのだから驚きだ。

 この新しい入試では、単なる学力だけではなく、高校時代の探究活動や課外活動が評価される。

 問われているのは「自分で課題を見つけ、解決しようと試みた、その過程や姿勢」であり、「自分の意見を言えるか」「経験を言語化できるか」といった点が重視されているのだ。

 つまり、親も昔のように、子どもに対して「勉強しなさい!」と言っていればいい時代は終わったと言える。

現代の社会で求められる「10の力」

 しかし、子どもを「自分の力で課題を見つけ、解決し、社会のなかで生き抜いていける人」に育てるには、どのような力を身につけさせて、どういった教育や声かけをすればいいのだろうか。

 孫氏は、1万件以上の志望理由書と推薦入試の面接を分析した結果、「志望する大学を見つけ、合格にたどり着いた生徒には『点数では測れないが大学や社会で高く評価される資質』が共通していることがわかった」と語る。

 その共通項を整理すると、次の「10の力」に集約されるという。

1. 信念(自分の軸を持ち、成長し続ける力)
2. 主人公マインド(自分の人生を自分で動かす力)
3. 問題児マインド(違和感を恐れず、創造的に反抗する力)
4. 巻き込みマインド(仲間や大人を巻き込みながら挑戦する力)
5. 物語マインド(自分の経験を物語として語れる力)
6. 自責マインド(責任を引き受け、当事者意識を持つ力)
7. 逆境マインド(失敗や挫折を糧にして跳ね返す力)
8. 狂信者マインド(好きなことをとことん追求する力)
9. 越境マインド(枠を越えて異なる人や文化と関わる力)
10. 完遂マインド(困難があってもやり切る力)(P.83-84)

 これらはどれか一つだけ突出していればいいものではなく、すべて完全に備えていなければならないものでもない。「組み合わせによりその人らしさを形づくるもの」と孫氏は語る。

 今回は、この10の力のなかから「巻き込みマインド」について解説したい。

「一人の天才」では生き残れない時代の必須スキル

 孫氏の語る「巻き込みマインド」とは、何かを成し遂げようとするときに、「すべてを自分一人で抱え込むのではなく、周囲と協働して進めようとする姿勢」のことだ。

困難な課題や目標に向き合ったとき、「誰かに手伝ってもらってもいい」「仲間と力を合わせたほうがいい結果が出る」と考えられる柔軟さと、そのために必要な理解を得る努力や対話の姿勢が、このマインドの核にあります。
「巻き込む」というと、強いリーダーシップのように聞こえるかもしれませんが、ここで言う巻き込みマインドはもっと繊細なものです。それは、「自分の考えや想いを、周囲にも伝え、共有しようとする姿勢」であり、他者の力や視点を信じ、頼りながら進む勇気でもあります。(P.123-124)

 なぜ、この巻き込みマインドが必要なのか。それは、「一人の天才がすべてを解決する時代ではなくなったから」と孫氏は語る。

 確かに、一部の優秀な人に頼った結果、属人化が進んだことが問題に上がるようになったし、カリスマ経営者はいまだにいるものの、その人に黙ってついていくような時代ではなくなっている。

 今は、異なる意見や力を持った人たちがつながり合い、共に課題を乗り越えていく姿勢が求められているのだ。

自立とは「一人で抱え込むこと」ではない

 筆者はフリーランスのライターだが、いわゆる脱サラをして個人事業主になったことで、「自分のマンパワーが稼ぎの限界」ということをひしひしと感じている。

 もちろん、誰かを雇用して大きな仕事を受けることもできる。しかし、それには考え方の違う誰かと協力して仕事を進める面倒くささが伴う。

 会社で中間管理職として働いた経験もある分、それがどれだけ面倒で労力がかかるかも痛いほどわかっているから、ためらわれるのだ。

 しかし、人を巻き込み、一緒になって大きな目標に向かっていくほうが充実感もあるし、成果も大きいことはよくわかっている。

 だからこそ、「巻き込みマインドが必要だ」と孫氏が語るのも納得だ。

知っておきたい「巻き込みマインド」の育て方

 孫氏は、巻き込みマインドを育てるために、次の4つの経験や育て方を推奨する。

1. 「一人ではできない」状況をあえてつくる
たとえば、班での発表や家庭内イベント、地域のお祭りなど、他者と役割を分担しないと進まない活動に参加させる。(P.126)
2. 「頼ることは良いこと」と捉えさせる
「手伝ってって言えてえらいね」「相談してくれてありがとう」など、助けを求めた行動をポジティブに評価する。(P.127)
3. 「伝える」「共有する」練習を積ませる
「どんなふうに協力してほしいと思ってる?」「その想いを相手にどう伝える?」と、他者への共有のプロセスを丁寧に練習させる。(P.127)
4. 対話の体験を成功体験として積ませる
誰かに想いを話し、理解された経験を「通じた!」という手応えにする。意見が通らなくても、「話せたこと」を肯定してあげる。(P.127)

 確かに、子どもの頃から親にこういった声かけをされたり、経験をさせてもらっていたりしたら、誰かと協力して物事を成し遂げることに対して、ポジティブに捉えられるようになるだろう。

 一方で、「人に迷惑をかけてはいけません」と言われ続けたら、つい抱え込んで自分でなんとかしようとする大人になってしまうのも想像に難くない。

 自分一人では叶えられない大きな夢を、誰かと一緒に成し遂げることができたら、どんなに素敵な人生だろうか。

 もちろん、子どもの性格などにもよると思うが、可能であればぜひ巻き込みマインドを育ててあげてほしいものだ。