「コスパ」はいいけど、「サイパ」が悪いこととは?

 このような、「投資効率」の考え方は、「コスパ」「タイパ」でお馴染みですね。

 これは、できるだけ小さな資源の消費量で大きな価値を生み出そうとする考え方であり、お金という資源であれば「コスパ(コスト・パフォーマンス)」、時間という資源であれば「タイパ(タイム・パフォーマンス)」といわれます。

 そして、多くの組織では、すでに「コスパ」や「タイパ」は強く意識されています。

「生産性が低い」「効率が悪い」といった言葉が使われるとき、その多くはコストに対しての成果や、時間に対しての成果―つまり「コスパ」や「タイパ」のことを指しています。しかし、ここに本来含まれるべきなのに含まれていない「重要なもの」があります。それが、「心理的リソース」という資源であり、「サイパ」という判断基準なのです。

 この「サイパ」の視点で、会社のなかのさまざまな活動を見直してみてください。

 たとえば、複雑な承認プロセス。これは、表面上は「必要な業務」であり、ひとつの承認を得るためにはたいして時間もかかっていないかもしれません。

 しかし、必要な時間は少なくても、「あの人に今お願いして大丈夫だろうか」という不安を抱えたり、待ち時間に「まだだろうか」とイライラしていれば、それは心理的リソースを奪っていることになります。

 あるいは、リモートワークもそうです。

 オフィス賃料、通勤時間、移動コストがすべてカットできるリモートワークは、「コスパ」「タイパ」の観点からはとても合理的な意思決定です。しかし、場合によっては、これが「サイパ」の悪い意思決定になってしまうことがあります。

 なぜなら、リモートワークでは、メンバー同士の表情や空気感が伝わりづらく、一人ひとりが「この人は今どんな状態なのだろう」「進捗状況はどうだろう」と想像することに心理的リソースを使う必要があるからです。

 それに、ちょっと聞きたいことがあるときにも、ミーティングを設定したり、チャットでメンションしたりする必要があり、「この程度のことで声をかけていいのだろうか?」と、ためらってしまう人も多いでしょう。新規事業開発や新しいメンバーの加入時など、頻度高くコミュニケーションが必要なケースでは、特にこのような消耗の影響が大きくなります。

 また、雑談や業務外のやり取りが減り、「自分に関心が向けられている」「チームの一員として認識されている」という実感が得づらくなります。オフィスであれば、日常的なコミュニケーションのなかで生まれていた心理的リソースも、リモートワークでは生まれづらくなるのです。

賢いリーダーは、意思決定に「サイパ」を加味する

 組織のなかには、このように「明らかな無駄遣いではないけれども、価値を生み出していない、あるいは価値を毀損している」という活動が山のようにあります。

 つまり、私たちの組織やチームには、「サイパ=心理的リソース効率」が悪い判断がたくさん隠れているのです。

 こうしたタスクばかりが積み重なっていれば、一見、忙しそうに働いていたとしてもチームの成果が出ることはありません。ですから、「コスパ」「タイパ」だけではなく、「サイパ」の視点を加味することによって、より的確な経営判断やマネジメントができるようになるのです。

 言うまでもありませんが、「コスパ」「タイパ」が重要ではないと言いたいわけではありません。それらが重要なのは議論の余地がありませんし、すでにそのことは多くのリーダーが自覚しているはずです。

 ただし、「コスパ」「タイパ」のみを重視することで、「サイパ」を悪化させてきた弊害が大きいということは、声を大にしてお伝えしたいと思います。そして、これからは意識的に「サイパ」の観点を大事にしてほしいのです。

 心理的リソースは、組織やチームの活力の根源です。

 そして、リーダーが「サイパ」の視点をもつということは、お金や時間と同じくらい、ときにはそれ以上に大切な「価値」として、心理的リソースを捉えるということです。

 このことは、心理的リソースの資源としての「価値」と、それが生み出しうる「価値」の影響を適切に捉えて、それを大切に扱うことでチームの可能性を広げていく姿勢をもつということなのです。

(本原稿は『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』を一部抜粋・加筆したものです)

櫻本真理(さくらもと・まり)
株式会社コーチェット 代表取締役
2005年に京都大学教育学部を卒業後、モルガン・スタンレー証券、ゴールドマン・サックス証券(株式アナリスト)を経て、2014年にオンラインカウンセリングサービスを提供する株式会社cotree、2020年にリーダー向けメンタルヘルスとチームマネジメント力トレーニングを提供する株式会社コーチェットを設立。2022年日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー受賞。文部科学省アントレプレナーシップ推進大使。経営する会社を通じて10万人以上にカウンセリング・コーチング・トレーニングを提供し、270社以上のチームづくりに携わってきた。エグゼクティブコーチ、システムコーチ(ORSCC)。自身の経営経験から生まれる視点と、カウンセリング/コーチング両面でのアプローチが強み。