「コスパ」「タイパ」を上げる――。多くの組織・チームで、取り組まれていることではないでしょうか。これが、効率的な組織をつくるために欠かせない視点であることは言うまでもありません。しかし、「コスパ」「タイパ」にばかりとらわれることで、逆にチームが疲弊し、生産性を下げてしまうケースが散見されます。なぜ、そんなことが起きるのか?この記事では、新刊『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』(櫻本真理・著)から抜粋しながら、「コスパ」「タイパ」に注力しすぎる弊害と、それに加えて意識すべき「サイパ=サイコロジカル・リソース・パフォーマンス」について説明します。

「コスパ」「タイパ」を重視する組織が疲弊するメカニズムとは?Photo: Adobe Stock 写真はイメージです

「一応、CC入れといて」がもたらす消耗

 朝から晩まで、皆忙しそうに働いている。会議は連日続き、資料作成やメール対応に追われている様子も伝わってくる。なかには、休日出勤しているメンバーもいる。それなのに、チームの成果は出ない。

 そんなとき、もしかしたら、「必ずしも無駄ではないけど、大きな価値を生まない」タスクに心理的リソースを使ってしまっているのかもしれません。

 あるチームの例を見てみましょう。

 小売業のマーケティング部門のリーダー・佐竹さんに聞いたお話です。

 ある日、メンバーがメールを作成しているときにこう尋ねました。

「佐竹さん、この件の宛先、誰を入れておきますか?」

 深く考えずに、佐竹さんは答えます。

「とりあえず全員入れといて」

 過去に「そんな話は聞いていない」「自分は知らなかった」と言われて困った経験があったからです。

 その後も同じような場面が続きます。

「この会議の議事録、誰に送りますか?」

「これも共有したほうがいいですか?」

 問いかけられるたびに、佐竹さんは忙しさもあって「とりあえず全員入れといて」と返しました。

 こうしてチーム内のメールやチャットの宛先は、どんどん膨れ上がっていきました。全員が大量の通知を受け取るようになってしまったのです。特に、リーダーである佐竹さんのもとには大量のCCメールが届き、その処理に膨大な時間とエネルギーを使うようになっていました。

 また、メンバーは「すべてのメールに対応する必要はない」と思いながらも、「一応読んでおいたほうがいいのかな」「返事を期待されているかもしれない」と気になってしまいます。無視するのも不安で、つい確認してしまう。その結果、メールが届くたびに作業は中断されていました。

 一方で、こんな大問題が起きました。

 あるとき、顧客から「発注内容が違う」と強いクレームが入ったのです。担当者は慌てて社内で発注内容に関する情報を確認しますが、どこで齟齬が生まれたのかつかめません。会議室で上司や同僚と対応策を相談しているとき、隣にいた同僚がふと口にしました。

「え、この件、メールで共有されてましたよね? CCに入ってましたよ」

 そう言われた担当者は一瞬、頭が真っ白になりました。受信箱を確認すると、たしかにそのメールは残っています。しかし、全く見た覚えがありませんでした。大事な情報を見逃してしまっていたのです。

 こうして、「とりあえず全員CC」といういい加減な判断が積み重なった結果、本当に必要な情報が見逃される状況に陥っていたのです。そして、このようなトラブルが頻発するようになった結果、全員の心理的リソースを奪い続けるようになってしまったのです。

「サイパ=心理的リソース効率」という新しい視点

 このケースで大切なことは、「CCに入れる」という行為そのものには、ほとんど時間もお金もかかっていないということです。クリックひとつで済む操作ですから、リーダーにとっては取るに足らないことに見えるかもしれません。それが「とりあえずCC」という判断につながっているわけです。

 しかし、この「CCに入れる」という行為によって、「メールやチャットが増えることで、メンバーの集中が途切れる」「『自分も対応すべきだろうか』という不安や迷いが生まれる」という形で、チームは心理的リソースを消費してしまっていました。しかも、「本当に重要なものを見逃すリスクが高まる」という形で、チームの価値を阻害してしまっていたのです。

 ここでご紹介したいのが「サイコロジカル・リソース・パフォーマンス(Psychological Resource Performance)」という視点。略して、「サイパ」です。

「サイコロジカル・リソース」とは「心理的リソース」を指します。パフォーマンスとは、リソースの投下から生み出される経済的価値・顧客満足・従業員満足などを含む「価値」全般です。つまり、「心理的リソースの投下に対して、どれだけの価値を生み出せているか?」という考え方です。これは、次のような計算式で表現することができます。

 サイパ=生み出されている価値/費やした心理的リソース

 佐竹さんのチームでは、「なんでもCCに入れる行為」によって、「顧客の信頼」というチームにとっての価値を失い(分子が小さくなる)、「メールチェックの負荷が上がる」「読むべきかと不安になる」というかたちで消費する心理的リソースは増えていました(分母が大きくなる)。つまりサイパが悪かったのです。

 このように、「サイパが悪い」とは、「心理的リソースの消費が大きいにもかかわらず、大した価値を生み出さない」ということであり、「サイパがいい」とは、「小さな心理的リソースの投下で、大きな価値を生み出す」ということです。