アウシュビッツPhoto:PIXTA

1960年代のケネディ政権以降、アメリカのユダヤ系移民は差別の対象から脱し、政治や経済の中枢へと進出していった。反ユダヤ主義は過去のものになったと思われたが、現在彼らに向けられる目が再び厳しくなっている。全米各地のユダヤ教会で相次ぐ銃乱射や襲撃事件…。ユダヤ系移民が受けてきた、差別の源泉をたどる。※本稿は、元外務省中東アフリカ局参事官の宮家邦彦『中東 大地殻変動の結末 イスラエルとイランをめぐる、米欧中露の本音と思惑』(中央公論新社)の一部を抜粋・編集したものです。

世界中で差別されてきた
祖国のないユダヤ系移民

 米アトランティック誌2024年4月号に驚くべき記事が掲載された。長年、中東問題を追いかけてきた筆者には文字通り「衝撃」だった。

 表題は「アメリカのユダヤ系の黄金時代は終わりつつある」。

 この小論の結論は、(1)反ユダヤ主義は右派だけでなく左派にも増えている、(2)ユダヤ系米国人の前例なき安全と繁栄の時代は終わる、(3)彼らが望むリベラルな秩序も破壊の危機に瀕している、というのだから驚く。

 1830年代以降、主として欧州のキリスト教社会での厳しい差別を逃れて米国にやって来たユダヤ系移民は数百万人に上るといわれる。彼らは、米国にも存在する「反ユダヤ主義」と戦いながら、様々な苦難を乗り越えてきた。

 1960年代からはようやく「差別を克服する」ことにある程度「成功」し始めた、いや、彼らが勝手に「成功」してきたと思い込んでいたのかもしれない。かくいう筆者も、実は長年、そう思っていた。

 だが、現実は全く逆だった。

 彼らは、紀元1世紀にローマによってカナンの地から放逐された。その後も、長年祖国を持たない「流浪の民」は世界各地で差別されてきた。その意味で、彼らにとって米国は、イスラエル以上に、究極の「安住の地」だったのかもしれない。