錦織は校長に、トキのけがは全快

 そもそもの懸案事項であった「ラシャメン騒動」はすっかり遠い過去のようになり、ヘブンも安心で、あだ名のとおり「大盤石」と知事に言われる錦織。松江中学の校長になる日も近かった。

 錦織はついに「噂(うわさ)で聞いていた者もいると思うが、私はこの冬、この松江中学校の校長になる」と生徒たちに発表した。

 自分が校長になった暁には「優秀な諸君を帝大に入れる道筋を作ってやりたいと思っている」と目標を語る。彼自身が帝大に入れなかったからこそ、生徒たちを支援したいと思っているのだろう。

 やる気を見せる錦織だが、ヘブンは浮かない顔をしている。

 その頃、トキはフミ(池脇千鶴)に包帯をとってもらっていた。

 すっかり傷が治って、今日のお米とぎは元気が良い。

 そんなトキをヘブンが散歩に誘う。

 久しぶりの散歩。散歩、散歩、お散歩と楽しそうなトキだが……。

 さて、トキのモデル・セツが、ヘブンのモデルである小泉八雲のラシャメンではなかったかという説も、実際にあったそうだ。

 では、食い逃げ知事は、遊女と力士の心中事件は……史実? 橋爪國臣チーフプロデューサーに聞いた。

「『食い逃げ知事』はふじきみつ彦さんの創作です。実際に知事が食い逃げなんて絶対しないでしょう。明治時代の知事だったらおそらくツケで、あとから請求書をもらって払っていたと思います。リアルに考えれば食い逃げなんてありえないけれど、ここで描きたかったのは、世の中の軽さです。

 それまでトキが洋妾ではないかと不信感を抱いて嫌がらせを行う人々が、別の事件が起こった途端、あっという間に攻撃の矛先を変える。そしてトキには何事もなかったように穏やかな日常が帰ってくる。事件が解決するために正当な手順を必要としないんです。そういうことは現実にもあります。このエピソードは極めて現代的なテーマも含んでいると思います。

『力士と遊女の心中事件』、これも創作です。力士と遊女の心中事件が当時あったかわかりません。ただ、江戸時代も明治時代も、かわら版や新聞で話題になる事件のひとつに心中がありました。心中事件は新聞によく載っていたし、松江は力士の町なので、力士と遊女の心中事件はおそらく盛り上がっただろうと作りました。

 それと、これまで3回出てきた清光院の松風の怪談は、力士と遊女の悲恋です。とくに仕掛けたわけではないですが、力士と遊女の心中と聞いて清光院を思い出してくれる視聴者もいるかもしれませんね」

 どちらも創作であった。力士に関しては第87回で司之介が力士とやりあったというセリフがあったので、その力士だったりして? 力士もいろいろあって、いら立っていたのかも? なんて妄想が膨らんだ。

明治の「食い逃げ知事」騒動、令和の選挙に通じる“情報戦”に背筋が凍る〈ばけばけ第89回〉
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