明治の「食い逃げ知事」騒動、令和の選挙に通じる“情報戦”に背筋が凍る〈ばけばけ第89回〉

悪いのは誰?

「何と言いますかありがとうございます」「潮目が変わったと言いますか、何と言いますか、さすがは江藤県知事」と、錦織(吉沢亮)はほっと胸をなでおろすのだった。

「良い食い逃げでした」とたたえる錦織。厳密にいえば「良い食い逃げ」なんてないけれど。食い逃げは犯罪です。

 ヘブン(トミー・バストウ)が仕事から帰宅すると、トキが迎えに出て来て、ヘブンはトキを抱き上げくるくるまわす。

 永見(大西信満)は「不器用ですが……」とむせび泣く。

 脚本家のふじきみつ彦は「食い逃げ知事」や「不器用ですけん」など、短く親しみやすい言葉選びのセンスがいい。

「不器用ですけん」もこの一言があるだけで、キャラが立ち、出番もセリフも少なくても印象に残る、いい発明である。

 久しぶりのおいしい夕飯。

 ようやく、騒動が終わったことを、錦織にお礼をいうヘブンとトキ。

「よくぞ耐えました」と錦織はトキをねぎらう。

 下戸の錦織を残して、ヘブンと司之介は酒を飲む。

 おっとっとっと、なんて言うヘブンに「すっかり日本人だよ」と司之介。

 酒を飲んでも、ヘブンは夜、仕事する。勤勉だ。

「お先に休ませていただきます」と言うトキに「ゆっくり寝てくだされ」とやさしい。

 そして、「ごめんなさい 異人いっしょなったから わたし悪い ごめんなさい」と謝る。

「違います」とトキは否定。

「悪いのはヘブンさんでも私でもございません」

 誰が悪いとはトキは言葉にしない。でも、悪いのは流されがちな社会だと思う、と筆者は言葉にしてしまう。

「それよりありがとうございました。ヘブンさんと一緒になってよかったです」と良いことに目を向ける。

 いつものいいときにかかる劇伴がかかって……。

「でしょ?」
「でしょ?」
「でしょ? ふふふ」

 トキとヘブンはこうやって、自分たちの機嫌をとっている。

 ヘブンはトキが寝室に向かったあと、ふと何か考えているふうだが、すぐ仕事に戻る。

 翌日? 数日後? 今度は世間は、知事の食い逃げを忘れ「力士と遊女の心中事件」の話題に夢中になっていた。

「世間は勝手というか、なんというか」と、あきれ気味の江藤。

 第89回の錦織は「なんというか」が多い。これは先週、第17週のサブタイトルでもあった。