赤ちゃんは「語りかけ」を
「ご褒美」と捉えている
こうした「愛着を持った養育者からの語りかけの重要性」は脳科学的にも根拠があることのようです――ひと言でいうと、赤ちゃんの脳は、こういった語りかけを「ご褒美」として感じ、それが言語獲得の動機の一つとなっていそうなのです。
つまり、言語獲得の根幹は、養育者からの音声を使った語りかけが築くものなのです。
ということは、生成AIと人間言語は、その学習データの質がまったく異なります。これが「生成AI≠人間言語」と考えられる大きな理由の一つです。この「音声」vs.「文字」の違いは、私たちが言語学者としてもっともこだわっている部分でもあります。
生成AIの読み上げ機能を使ったとしても、大人向けの書き言葉から学習した発話と、子どもに向けて語りかけられる音声の違いは、言語学的な観点からは無視できません。
『言語学者、生成AIを危ぶむ 子どもにとって毒か薬か』(川原繁人 朝日選書、朝日新聞出版)
今後の技術の向上によって、前述の子ども向けの発話の特徴に関して、「音の特徴」「単語の特徴」「文の特徴」に関しては、チューニングが可能になるかもしれません。ただ、「その他の特徴」――とくに人間の体を持たない生成AIにとっては、「表情の豊かさ」や「触覚への刺激」という点――に関しては、すぐには実装が難しいのではないかと考えられます。
ここで、「音声が不可欠」という私の議論に対して、「では手話はどうなのか?」という疑問が頭に浮かんだ読者の方もいらっしゃるでしょう。もちろん、養育者が手話を使う場合もありますが、手話も書き言葉と大きく異なります。言語学の研究によって、手話も音声言語と変わらない複雑な構造を持ち、音声言語で表現できることは手話言語でも表現できることが明らかになっています。
また、手話による表現には表情が大切な役割を担っており、その点でAIが生成する文章や音声と異なります。まとめると、ここで問題にしている区別は、「聴覚」vs.「視覚」ではなくて、「音声言語・手話」vs.「文字」です。







