ダーウィンの『種の起源』は「地動説」と並び人類に知的革命を起こした名著である。しかし、かなり読みにくいため、読み通せる人は数少ない。短時間で読めて、現在からみて正しい・正しくないがわかり、最新の進化学の知見も楽しく解説しながら、『種の起源』が理解できるようになる画期的な本『『種の起源』を読んだふりができる本』が発刊された。
長谷川眞理子氏(人類学者)「ダーウィンの慧眼も限界もよくわかる、出色の『種の起源』解説本。これさえ読めば、100年以上も前の古典自体を読む必要はないかも」、吉川浩満氏(『理不尽な進化』著者)「読んだふりができるだけではありません。実物に挑戦しないではいられなくなります。真面目な読者も必読の驚異の一冊」、中江有里氏(俳優)「不真面目なタイトルに油断してはいけません。『種の起源』をかみ砕いてくれる、めちゃ優秀な家庭教師みたいな本です」と各氏から絶賛されている。本稿では、東京大学総合研究博物館・特任准教授の松原始氏(動物行動学)に本書の魅力を寄稿いただいた。(ダイヤモンド社書籍編集局)
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あの名著を読み通した人はどれくらいいるのか?
なんとも人を食ったタイトルだが、大丈夫。著者は進化生物学者だ。
と、ページを繰って面食らった。まえがきが二つ? 真面目な読者向けと不真面目な読者向け。しかも、両方読むと心構えがブレるので一つしか読んではいけない。こんなことを書かれたら不真面目な方を読みたくて仕方ない。書評を書くのに必要なのだと言い訳して、心を強く持ちつつ両方読んだことを白状する。
『種の起源』は言わずと知れた、チャールズ・ダーウィンの名著である。進化論の原点であり、自然淘汰や生存闘争といった言葉で進化を説明したこともよく知られているだろう。だが、『種の起源』を全部読んだ人はどれくらいいるだろう?
それは生物学者でもそうだ。生物学を志す学生が覚えたいのは現代の進化生物学であって、古典的な解説書ではない。実のところ、『種の起源』は現代の目で見ると、大筋正しいがあちこち間違っているのである(大きな理由はまだ遺伝子について知られていなかったからで、無理からぬことなのだが)。おまけにひどく読みづらい。絶対、途中で寝る。もって回ったくどい書き方をしているうえ、言葉の定義が微妙だったりするし、改定されながら6版まで出版され、ダーウィン自身がいろいろ迷いながら書いているからだ。
鮮やかな要約と丁寧な補足説明
そこで、本書の出番である。
著者は『種の起源』の章立てに沿って、そのツボを鮮やかに要約してゆく。ダーウィンは進化の要因として「要不要」「習性」なども挙げており、これがまた現代の生物学を知っていると余計に混乱する元なのだが、正直に言おう。この本を読んでやっと理解できた。
また、ダーウィンが間違っていた部分についても、現代の知見から丁寧に補足説明がなされる。本書のタイトルをぶち壊すような言い方になるが、『種の起源』の引用部分を飛ばして読んでも、進化生物学の教科書として通用するほどだ。これも「相手の言いそうな反論を先回りして書いておき、それから反論する」という『種の起源』の文体とパラレルに感じられる。『種の起源』は著者の表現を借りれば「各章で反論をかわしてパンチを打ちつつ、13ラウンド目のラッシュでKO勝ち」である。
ダーウィンの偉業が理解できる
むろん、ダーウィンの慧眼もきちんと紹介される。驚くなかれ、社会性昆虫の利他的な進化について、ダーウィンはほぼ正確に考察していたのだ。自然淘汰と対立すると思われがちな中立的な進化についてさえ言及している。
本書を読むと、ダーウィンの偉業が改めて理解できるはずだ。著者は「時空の中に聳え立つ大樹のような、壮大な生物の類縁関係を完全に記述することができたのである」とその業績を讃えている。なんたる荘厳な仕事、そして全き賛辞であることか!
さて、この書評を読んでも本書を読んだふりができないよう、ネタバレはなるべく避けた。『種の起源』を読んだふりがしたければ、是非お読みになるべきである。私もさっそく、読んだふりをさせていただいた(笑)。
1969(昭和44)年、奈良県生れ。東京大学総合研究博物館・特任准教授。京都大学理学部卒。同大学院理学研究科博士課程修了。専門は動物行動学。研究テーマはカラスの生態、行動と進化。著書に、『カラスの教科書』『鳥類学者の目のツケドコロ』『カラスは飼えるか』『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?』『もしも世界からカラスが消えたら』、最新刊に『君たちはなぜ、そんなことしてるのか? 東大准教授のひそやかな動物行動学講義』がある。長年の観察により、ハシブトガラスの言葉が少しくらいはわかるようになった。
(本原稿は、『『種の起源』を読んだふりができる本』に関連した書き下ろしです)



