社会人になってから、プログラミングや英語、資格試験の勉強を始めたものの、なかなか身につかない。何度も教科書を読み返しているのに、いざ実践になると使えない――。そんな経験はないだろうか。実は、ただ情報を頭に入れるだけでは、実践的なスキルは身につかない。必要なのは「思い出す練習」なのだ。『ULTRALEARNING 超・自習法』は、MIT(マサチューセッツ工科大学)の4年分のカリキュラムをわずか1年で習得した著者が編み出した、超効率的な学習メソッドを紹介している。本連載では、ウォール・ストリート・ジャーナル・ベストセラーにもなった本書の「学習メソッド」を紹介していく。(構成:ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)
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記憶だけでは足りない
教科書を何度も読み返す。重要な部分にマーカーを引く。ノートにまとめる。
これらは多くの人が実践する勉強法だろう。
しかし本書によれば、こうした「情報を頭に入れる」だけの学習は、実践的なスキルの習得には不十分だという。
たとえば、プログラミングを学ぶ場合を考えてみよう。
あるアルゴリズムが何を意味するのかを理解するだけでは、実際にそれをプログラムの中で書くことはできない。理論を知っていることと、それを使いこなせることの間には、大きな隔たりがあるのだ。
生成AIの普及により「コードを書けなくてもプログラミングができる時代」になってきたと言われる。しかし実際には、AIが生成したコードの意味を理解し、適切に修正できる能力が求められている。つまり、単なる知識ではなく「使える知識」への転換が、これまで以上に重要になっているのだ。
課題を自分で作る
では、どうすれば「使える知識」に転換できるのか。
本書が提示する解決策の一つが「課題作成」という戦術だ。
本書には次のように書かれている。
何か新しいテクニックの存在を知ったとき、実際の例の中でそのテクニックがどう使用されるかを示すメモを書いておくようにしよう。そうした課題のリストを作成しておくと、それが後でスキルを実践の中でマスターするためのヒントとして機能し、実際に使うことのできるツールのライブラリを拡張することができる。(『ULTRALEARNING 超・自習法』より)
つまり、教科書で学んだテクニックを、自分なりの課題に落とし込んでおくということだ。
たとえば、プログラミングでループ処理を学んだら、「顧客リストから特定の条件に合う人を抽出する」といった具体的な課題を自分で作る。英語の関係代名詞を学んだら、「自分の仕事内容を外国人に説明する文章を書く」といった課題を設定する。
この課題作成という作業自体が、知識を実践に橋渡しする重要なプロセスになっている。単に「知っている」から「使える」へと、知識の質を変えていく作業なのだ。
参照を禁止する
課題を作ったら、次に重要なのが「参照禁止」という戦術だ。
これは文字通り、何かを学習する際に、教科書やノートを見ずに行うというものである。
本書には、こんな興味深い研究が紹介されている。学生たちに概念マップを作成させる実験では、教科書を見ながら作った学生よりも、教科書を見ずに記憶だけで作った学生の方が、最終試験で良い成績を収めたのだという。
情報源を参照できないようにすることで、情報は参考書の中にあるものではなく、頭の中に保存された知識へと変わるのだ。(『ULTRALEARNING 超・自習法』より)
つまり、参照しながら学ぶと、脳は「情報はそこにある」と認識してしまい、自分の中に取り込もうとしない。
しかし参照を禁止することで、脳は必死に記憶から情報を引き出そうとし、その過程で知識が定着するのである。
これは、カンニングペーパーを作るだけで満足してしまう学生の心理に似ている。「いつでも見られる」という安心感が、かえって記憶の定着を妨げているのだ。
「回想」が学びを加速させる
本書が一貫して強調しているのは「回想」の重要性だ。
回想とは、記憶から情報を引き出す行為のこと。課題作成も参照禁止も、すべてはこの回想の機会を増やすための戦術なのである。
従来の学習では、「インプット」に重きが置かれてきた。しかし、本当に大事なのは「アウトプット」、つまり回想の練習だということになる。
考えてみれば、実際の仕事では、教科書を見ながら作業することはほとんどない。プレゼンテーションで資料を読み上げる人は頼りなく見えるし、顧客との商談中にマニュアルを確認する営業担当者は信頼されない。
結局のところ、実践の場では「頭の中にある知識」だけが頼りなのだ。だからこそ、学習の段階から「思い出す練習」を徹底することが、実践力を高める最短ルートになる。
今日から始める実践法
それでは、この2つの戦術を具体的にどう実践すればいいのだろうか。本書を参考に以下の4つのステップにまとめてみた。
ステップ1:学んだ内容を、自分の言葉で説明できるか確認する。教科書を閉じて、誰かに説明するつもりで声に出してみる。
ステップ2:学んだテクニックを使う具体的な場面を想像し、課題として書き出す。「もし○○の状況になったら、このテクニックをどう使うか」を明確にする。
ステップ3:作成した課題に、何も見ずに取り組んでみる。どうしても思い出せないときだけ、教科書を確認する。その際、確認した箇所は再度、何も見ずに実践する。
ステップ4:定期的に、過去に学んだ内容を思い出す時間を設ける。週に一度、「今月学んだことを何も見ずにリストアップする」といった習慣をつけるといいだろう。
これらは一見、手間がかかるように思えるかもしれない。しかし、何度も教科書を読み返すよりも、はるかに効率的に知識が定着するはずだ。
「人生100年時代」と言われる現代、学び直しは一度きりではなく、生涯にわたって続く。だからこそ、効率的な学習法を身につけることは、最も価値のある投資と言えるだろう。
本書が提唱する「課題作成」と「参照禁止」という2つの戦術は、そのための強力な武器になってくれるはずだ。





