ゴッホはなぜ、才能を疑われながらも画家として突き抜けることができたのか。その答えは、ひらめきではなく「試しては壊す」実験的学習にあった。『ULTRA LEARNING 超・自習法』(スコット・H・ヤング著)に描かれるゴッホの学び方は、変化の激しい時代を生きる現代の社会人にも通じる実践的ヒントに満ちている。(構成:ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)
Photo: Adobe Stock
遅すぎたスタートが生んだ“異端の学習者”
26歳で絵を描き始めたゴッホは、最初から才能が認められていたわけではなかった。
アトリエでは「未熟だ」と笑われ、3カ月で追い出された。それでも筆を置かなかったのは、彼が学び方そのものを「実験」していたからだ。
彼は、学習する際のリソースや方法、スタイルを見出し、それを信じられないほどの熱意をもって追求して、その過程で数百とは言わないまでも数十の作品を生み出した。(『ULTRALEARNING 超・自習法』より)
本書では、こうした取り組みを「仮説、実験、結果、繰り返し」と表現している。
つまりゴッホの学びは、天才の閃きではなく、科学者のような検証の連続だった。
失敗を恐れず試し続ける姿勢こそ、凡人が成果を出すための核心だと著者は説く。
模倣と失敗が生んだ独自のスタイル
ゴッホは独学で絵を学ぶため、バルグの『木炭の練習』やカサーニュの『デッサンのABC』を徹底的に使い込んだ。
弟テオに「60枚全部終わらせた」「早朝から夜まで練習した」と報告している。模倣から始め、失敗を重ねながら改良を繰り返すというこのプロセスこそ、実験的学習の原型だ。
実験から価値を得るには、必ずしもそれを成功させる必要はない。いずれにせよゴッホは、新しいテクニックを試す機会を数多く得たのである。(『ULTRALEARNING 超・自習法』より)
この「失敗を恐れない反復」が、後の『ひまわり』や『星月夜』へとつながった。
初期の灰色のトーンから、やがて強烈な色彩表現へと転じたのも、無数の試行錯誤の結果である。本書の考え方を参考にすると、失敗の多さは「才能の欠如」ではなく「創造の前段階」と言えるだろう。
現代の社会人にも通じる話だ。完璧な教材を探すより、実際に試し、修正し続けることがスキル習得を早める。ゴッホのように「試して壊す」姿勢が、変化の時代を生き抜く最大の武器になる。
熟練とは、うまくいかない方法を試し尽くした先に見つかる「自分だけの正解」である。
熟練するほど実験が必要になる理由
新しいスキルを学び始めた頃は、他人の方法をまねるだけで上達できる。しかしスキルが向上するにつれ、既存の型は役に立たなくなる。やがて、自分のやり方を見つける「実験の段階」へと入るのだ。
上達に伴い、知識を蓄積するよりも忘れることが学習になると、実験は学習と同義語になり、安全地帯の外に出て新しいことを試すようになる。(『ULTRALEARNING 超・自習法』より)
本書によれば、熟練者が差をつけるのは「量」ではなく「独自性」である。創造には必ず実験が伴う。
AIが急速に進化する現代社会においても、既存スキルにしがみつくのではなく、新しい手法を試す柔軟さが求められている。
ゴッホが何度も描き、失敗し、また描いたように、学びとは挑戦の連続だ。社会人のキャリアも同じである。試して失敗し、学び直す。そのサイクルこそが、持続的な成長を生み出す。
才能とは、生まれつきの力ではなく、「試すことをやめない意志」のことだ。
本書は、単なる学習テクニックの本ではない。ゴッホのように、自分の限界を実験しながら超えていくための哲学書でもある。
学び直しを志すすべての人にとって、今こそ「実験」が必要なのだ。





