構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。戦略とは何か。変化の時代に、企業は何を問い直すべきなのか。本連載では、さまざまな経営・組織の悩みをもとに、坂田氏に話を聞きながら、同書の思想を現在進行形の課題へと引き寄せていく

「『上司ガチャ』に外れてしまったので、転職しようと思います」それは本当に最善策なのか?Photo: Adobe Stock

「上司ガチャに外れた」と思ったときに
覚えていてほしいこと

――上司との相性が原因で、「この会社を辞めたほうがいいのでは」と考える人が増えています。この判断を、どう捉えればよいのでしょうか。

 仕事は突き詰めると、「何をやるか」以上に「誰とやるか」に大きく左右されます。だからこそ、上司との相性が合わないと感じたときに、「上司ガチャに外れた」と落胆するのは、とても自然な反応です。

 一方で、上司とのミスマッチという現象は、程度の差こそあれ、どの会社でも起こり得ます。たとえ転職先で「この上司は素晴らしい」と感じたとしても、その人が異動したり退職した後に、合わない上司がやってくる可能性は常にあります。

「上司ガチャに外れたから辞める」という判断だけを繰り返していると、上司という不確実な要素に、キャリアの主導権を預け続けることになってしまいます。

 もう一つ、見落とされがちな点があります。日本企業には、その組織にどれだけ長く関わってきたかによって、発言の通りやすさや影響力が変わるという、いわゆる村社会的な傾向があります。

 転職という選択は、この蓄積を一度リセットすることを意味します。短

 期的には楽になるかもしれませんが、長期的には不利に働く可能性もあります。だからこそ、感情だけで判断せず、一度立ち止まって考える必要があります。

「上司の問題」か「会社との相性」かを
切り分ける

――上司ガチャに外れたと感じたとき、それが耐えるべき経験なのか、環境を変えるべきサインなのかは、どう見極めればよいのでしょうか。

 考えるべき視点は、大きく二つあります。一つは事業内容、もう一つは企業文化です。

 まず事業内容について言えば、自分が本気で取り組みたいと感じているテーマであれば、上司との相性だけを理由に簡単に手放すべきではありません。

 一方で、企業文化が合わない場合は注意が必要です。文化とは、特定の上司の個性ではなく、組織全体に染み込んでいる価値観や振る舞いの集合体です。もし文化が合わないと感じているのであれば、上司が変わっても、同じ違和感を覚える可能性が高いでしょう。

 この見極めは非常に言語化しづらいので、一人で抱え込むと誤りやすくなります。社内外を問わず、自分より少し経験のある人に相談するとよいでしょう。今の状況は耐えるべきなのか、それとも離れるべきなのか。客観的な視点を借りることが有効です。

 もちろん、パワハラのような明確な問題がある場合は話が別です。それを認識できない、あるいは放置している会社に長くいる必要はありません。これは精神論ではなく、リスク管理の問題です。

――事業内容は好きだが、どうしても上司と合わない場合は、どう考えるべきでしょうか。

 まず認識すべきなのは、自分が変えられるのは自分自身だけだという点です。上司を変えることはできませんが、自分の関わり方を見直すことはできます。

 たとえば、細かい報告を求める上司に対して、それを十分に行っていないのであれば、摩擦の原因は自分側にある可能性もあります。

 ただし、どれだけ努力しても合わない人がいるのも事実です。人間関係に万能解はありません

 その場合には、部署異動や上司変更を正式に相談すべきです。もしあなたがその事業に本気でコミットし、成果を出しているのであれば、こうした要望が一度や二度、検討される余地はあります。

 それでも改善が見られない場合に、初めて転職を選択肢として考える。この順番が、現実的な判断だと思います。

転職を繰り返す人に共通する思考の癖

――「上司ガチャ」を理由に転職を繰り返してしまう人と、そうでない人の違いはどこにありますか。

 違いは、物事を他責で捉えるか、自責で捉えるかにあります。

 転職を繰り返してしまう人は、起きた出来事の多くを、上司が悪い、会社が悪い、環境が悪いと他人の責任にしてしまう。

 一方で、どんな環境でも成果を出している人は、自責で考えています。今の状況で自分にできることは何か、今日よりも明日、何を改善できるか。常に未来志向で、自分の行動に目を向けています。

 同じ上司、同じ環境でも、成長する人と停滞する人が分かれるのは、この思考の違いです。

――それでも最終的に転職を選ぶとしたら、どのような状態であれば前向きな意思決定だと言えるのでしょうか。

 キャリア初期であれば、やりたいことが分からないまま試行錯誤するのは自然です。1~2年で環境を変えること自体が、必ずしも間違いとは言えません。

 しかし、キャリア中盤に差し掛かっている場合、「今に不満があるから」という理由だけでの転職は、おすすめしません。転職を考えるなら、過去や現在が悪いからではなく、将来の自分の可能性に賭けるという理由であるべきです。

 そのために重要なのは、「絶好調のときに考える」ことです。

 仕事やプライベートがうまくいっていないとき、人は判断を誤りがちです。感情がネガティブな状態で下した決断は、後から後悔することが多くなります。

 今が比較的安定していて、それでもなお「次の環境で挑戦したい」と思えるかどうか。その状態で選んだ転職であれば、それは逃げではなく、前向きな意思決定になるはずです。

 ここまで述べてきたように、キャリアも感情で決めるものではなく、状況を分解し、順序立てて考える必要がある、ということです。『戦略のデザイン』では、そうした意思決定をするための視点を「10の問い」として整理しています。

――ありがとうございました。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。