構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。戦略とは何か。変化の時代に、企業は何を問い直すべきなのか。本連載では、さまざまな経営・組織の悩みをもとに、坂田氏に話を聞きながら、同書の思想を現在進行形の課題へと引き寄せていく。
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「老け込む人」は、
正解探しに疲れている
――30代半ばで管理職になった途端に、数年で老け込んだように見える人がいる一方で、年齢を重ねても柔軟さや若々しさを保っている人がいます。この違いは、どこから生まれるのでしょうか。
一番大きいのは、「正解を探す人」か、「最善手を探し続ける人」かの違いだと思います。
正解を見つけ、それに沿って生きようとする人は、環境が変わった瞬間に立ち止まりやすくなります。
正解を探すスタイルを続けていると、考え方や生活の仕方が固定化されてしまい、一度「これが正しい」と思うと、それを更新しなくなる傾向にあります。
一方で、「いまの状況で何が最善か」を考え続ける人は、前提が変わっても思考を更新し続けることができます。一つの答えに固執せず、常にアップデートする前提で生きているので、思考も行動も固まりにくいです。
この姿勢の違いが、時間とともに「老け込む」「老け込まない」という差になって表れてくるのだと思います。環境が目まぐるしく変化する時代に、常に正解探しを続けていれば、疲れてしまうのも当たり前です。
――どうして正解探しを続けてしまう人がいるのでしょうか?
学校教育の影響は大きいと思います。
学校で教わることは、基本的に「正解があるもの」です。先生という言葉も「先に生まれた人」と書きますが、知っている人、先に学んだ人が上に立ち、正解に近づくことが評価される構造です。
また、戦後の日本社会をみても、アメリカという明確なモデルがあり、「追いつけ追い越せ」が国や企業の戦略として機能していました。
しかし今は、環境は目まぐるしく変化し、どこかに明確な正解がある時代ではありません。国も企業も、前例をなぞるだけでは立ち行かず、その都度考え、選び続ける必要があります。
学生時代までは、知識や理論を身につけるという意味で「正解を知る」ことは重要です。
一方で社会に出てからはそうではありません。学生時代や高度成長期の延長線上で「正解を探し続ける」思考のままだと、変化に対応できなくなり、「正解を探し続ける姿勢」そのものが、変化への対応力を奪ってしまうことがあります。
その結果、変化に対応できなくなり、思考を更新しなくなっていきます。
老け込まない人が持っている「軸」は
どう生まれるのか
――では、正解がない状況でも考え続けられる人には、どんな共通点がありますか?
失敗との向き合い方に特徴があります。日本社会では、失敗は避けるべきもの、評価を下げるものとして扱われがちです。しかし、人が本質的に学ぶのは、成功よりも失敗の中からです。
失敗や困難に直面したとき、人は必死に考えます。
その中で、「自分はどう考えるのか」「何を大事にするのか」という、自分なりの判断の基準や価値観が少しずつ形になっていきます。それが自分の「軸」となります。
もちろん、どんな失敗でもいいわけではありません。繰り返される同じような凡ミスは、仕組みや手順を整えることで防ぐべきです。
一方で、新しい局面に挑戦した結果としての失敗は、避けることができませんし、避けるべきものでもありません。その失敗をどう意味づけ、次にどう活かすかが、軸を育てていきます。
だからこそ、先輩という立場から、善意であっても手取り足取り指導し、後輩の失敗の機会を奪ってしまうことは、本当に良くない。経験を積む機会を奪われた人は、考える力を育てられず、結果として早く老け込んでしまいます。
――同じ失敗を経験しても、老け込む人と成長する人が分かれるのはなぜでしょうか?
一番の違いは、出来事を「他責」で捉えるか、「自責」で捉えるかです。
老け込んでしまう人は、上司が悪い、会社が悪い、環境が悪いと、原因を外に置きがちです。そうしている限り、状況は変わらず、思考も止まってしまいます。
一方で、自責で考える人は、「自分は何ができたのか」「次はどう変えられるか」を考えます。自分の行動に視点を戻すからこそ、次の選択肢が生まれ、思考と行動が前に進みます。
この違いが積み重なることで、年齢に関係なく「老け込む人」と「老け込まない人」の差が広がっていくのだと思います。
老け込まないための、最初の一歩
――「最近、少し老け込んできたかもしれない」と感じている人は、何から始めればいいでしょうか?
まずは、自己決定力を取り戻すことをやってみてください。自分で決めたことを、自分で最後までやってみる。それだけです。うまくいかなければ、「なぜうまくいかなかったのか」を考えればいいのです。
それは本当に些細な、身近なことで構いません。毎日30分歩くと決める。会議で一度は自分の意見を述べる。月に一回、新しい人と話す機会をつくる。なにかしら新しいことに挑戦する。
重要なのは、「自分で決める」という感覚を取り戻すことです。
流されて生きていると、自分で考える機会が減り、思考は止まり、どんどん老け込んでいきます。自分で決める機会が増えるほど、自己決定力が高まり、そして人は思考を止めなくなります。自分で選び続けている限り、思考も感情も更新され続けます。
老け込まない人とは、特別な才能を持った人ではありません。自己決定を多く重ね続けている人なのだと思います。
――ありがとうございました。
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。




