構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。戦略とは何か。変化の時代に、企業は何を問い直すべきなのか。本連載では、さまざまな経営・組織の悩みをもとに、坂田氏に話を聞きながら、同書の思想を現在進行形の課題へと引き寄せていく

「GDPは日本を抜いて世界4位へ」――インド人ビジネスパーソンが「正解」を探さない理由Photo: Adobe Stock

「正解」を探す日本、「最善手」を試すインド

――2026年、名目GDPでインドが日本を上回る見通しだと言われています。実際にインド人の方と仕事をする中で、日本人と違うと感じた瞬間はありましたか?

 最初に感じたのは、「意思決定の前提」がまったく違う、という点です。

 日本人のビジネスパーソンは、常に正解を探しているように見えます。過去に何が行われてきたのか、上司は何と言っているのか、競合は何をしているのか。他社の事例や過去のやり方を丁寧に確認しながら、「正解がどこかにある」という前提で仕事を進めているように感じます。

 何が正しいかを見極めてから、動こうとする姿勢です。

 一方で、インド人のビジネスパーソンは、正解を探すことに時間を使いません

 その場その場で最善と思われる手をまず打ち、うまくいかなければすぐに軌道修正する。外から見ると、バラバラに好き勝手やっているように見えることもありますが、結果としてうまく機能するケースが多い。

 特に不確実性が高く、変化の激しい現代においては、このスピードと柔軟性が保たれた進め方のほうが合理的に機能する場面が多いのだと思います。

――この違いは、個人の資質というより、環境の違いなのでしょうか?

 その通りだと思います。インドは非常に多様性に富んだ国です。言語も文化も地域ごとにまったく異なり、産業構造も一様ではありません。そもそも「全国共通の正解」があることを前提に物事を進めること自体が難しい環境です。

 加えて、長年インフラや制度が安定していない環境が続いてきました。出張に行けば遅延やトラブルは当たり前、制度も頻繁に変わる。計画通りに進むことを前提にした仕事の進め方が、そもそも成立しにくい環境です。

 このような強い不確実性の中では、考え抜いてから動くよりも、まずやってみて、ダメなら修正するほうが合理的です。その積み重ねが、「試行錯誤を前提としたビジネスの進め方」という文化として根付いた背景だと思います。

日本人が学ぶべきは「雑さ」ではなく「前提の置き方」

――このやり方を日本に持ち込むと、「無責任だ」「雑だ」と反発されることもありそうですが。

 それは無理もありません。ものづくりが経済の中心だった時代には、計画を立て、工場を作り、決められた通りに生産して売る、というやり方が有効でした。その時代には、「ちゃんと考えてから動く」ことが合理的だったのです。

 しかし、今は日本企業を取り巻く環境そのものが変わっています。ものづくり中心の時代ではなくなり、環境の変化のスピードも速くなっています。アメリカの成功モデルをそのままなぞっても、うまくいく保証はありません。

 こうした環境では、「素早く動き、結果を見て、また最善手を考える」、この繰り返しが極めて有効です。

 日本人の丁寧さや計画性は、今でも大きな強みです。ただし、「最初から失敗しない前提」で考えてしまうと、その強みが足かせになることがあります。

 だからこそ、正解を決めて全員で頑張るよりも、個々人が最善手を打ち続ける発想を取り入れる必要があるのだと思います。

 問題は慎重さではなく、失敗を許容しない前提にあります。

――個人の裁量が大きくなると、組織としてまとまらなくなるのでは、という懸念もあります。

 確かに、全員がバラバラに動けばうまくいきません。だからこそ、二つの条件が重要になります。

 一つは、ビジョンです。細かな計画ではなく、「どの方向に向かっているのか」という大きな軸を明確にすること。

 もう一つは、共通のインフラやルールです。インドにはアドハーと呼ばれる国民IDのように、誰もが共通で使える基盤が整っています。

 方向性と共通基盤があれば、個々人が最善手を打ち続けても、全体としては同じ方向に進みます。細かく管理しなくても、結果として組織は機能する。この設計思想が重要なのだと思います。

「人間論」にしてしまうことが、最大の誤解

――最後に、日本人がインド的な考え方を取り入れる際に、注意すべき点は何でしょうか?

 一番やってはいけないのは、「日本人はダメで、インド人は優れている」という人間論にすり替えることです。日本人には、日本人の強みがあります。製造業の品質、現場改善の力、コンテンツ産業など、世界的に見ても高い競争力を持っています。

 大切なのは、どちらが優れているかではなく、どんな前提で意思決定しているかの違いを理解することです。日本の強みを活かしながら、インドの「試して修正する」姿勢を学ぶ。あるいは、インド人と組むという選択肢もあるでしょう。

 ただ、この発想を組織で本気で機能させるには、もう一つ越えなければならない壁があります。それは、「正解を待たずに動く」ことを、個人が引き受けられるかどうかです。

 そのために、明日からできることは、実はとてもシンプルです。

 小さなことでいいので、「自分で決めて、試してみる」こと。朝の行動を一つ変えてみる。上司の指示をそのまま受け取るのではなく、「別のやり方はないか」と一度考えてみる。

 正解を探す前に、最善手を打つ。この積み重ねが、不確実な時代における競争力をつくっていくのだと思います。

――ありがとうございました。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。