構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。戦略とは何か。変化の時代に、企業は何を問い直すべきなのか。本連載では、さまざまな経営・組織の悩みをもとに、坂田氏に話を聞きながら、同書の思想を現在進行形の課題へと引き寄せていく。

「頭のいい人」が、なぜなぜ分析の前に必ずやっていることPhoto: Adobe Stock

なぜを5回繰り返しても、解決策が出てこない理由

――「なぜを5回繰り返せば本質原因にたどり着く」と教わりましたが、実際には良い解決策が出てきません。なぜでしょうか?

 多くの場合、その理由はとてもシンプルです。

 そもそも、深く掘っても構造にたどり着かない問題を解こうとしているからです。

 問題解決は、しばしば「不安」「不満」「不便」といった表面的な「不」を起点に始まります。しかし、こうした違和感をそのまま出発点にしてなぜなぜ分析を重ねても、個々の出来事がどうつながり、同じ問題を繰り返し生んでいるのかという全体像には、なかなか届きません。

 表面的な「不」をどれだけ深掘っても、導かれる原因や解決策は、その場しのぎのものにとどまりがちです。その結果、「なぜを5回繰り返したのに、結局大した打ち手が出てこなかった」という状態に陥ります。

 これは分析が浅いからではありません。最初に設定した問題そのものが、構造として捉えられるレベルに至っていないからです。

――では、問題を分析するのに十分なレベルにまで深めるには、何から始めればよいのでしょうか?

 ここで重要になるのが、言葉ではなく、エピソードを見るという視点です。

 たとえば顧客ヒアリングで、「何が不満ですか?」と聞いても、返ってくるのは表層的な答えであることがほとんどです。そうではなく、「どんなときに心が大きく動きましたか?」と聞いてみる。嬉しかったのか、悲しかったのか、怒りを感じたのか。具体的な場面を、時間の流れに沿って丁寧にたどっていきます。

 一つひとつのエピソードは些細に見えるかもしれません。しかし、複数のエピソードを集めていくと、共通して現れるパターンや構造が見えてきます。その過程で、本人ですら言語化できていなかった本質的な問題に、初めてたどり着くことがあります。

「なぜ」で止まってしまう人が陥る落とし穴

――それでも、「これ以上“なぜ”を掘れない」「途中で思考が止まる」ということがあります。

 それは、「なぜ」という言葉で、原因を直接つかまえようとするからです。

「なぜそう感じたのか」「なぜ起きたのか」と問われても、人は自分の感情や行動の理由を正確に説明できないことが多く、そこで思考が止まってしまいます。

 ここで大切なのは、原因を無理に言語化させることではありません。

そのとき、どんな環境だったのか
どんな順番で物事が起きたのか
誰が、どこで、何をしていたのか

 このように、出来事を時間の流れに沿って具体的に再現していくことです。

「なぜ」を急ぐのではなく、状況の解像度を上げる。その積み重ねの中から、後になって意味のある構造が立ち上がってきます。

――ただ、現場では「早く原因を突き止めろ」と求められる場面も多いですよね。

 ここで混同してはいけないのは、エピソードベースのアプローチとなぜなぜ分析は、役割が異なるという点です。

 エピソードを徹底的に集めるのは、「解くべき問題を特定するため」。

 一方で、なぜなぜ分析は、特定された問題の背後にある構造を理解するために使います。本質的な問題が定まっていない状態で、なぜなぜを回しても、構造にはたどり着けません。

 エピソードを集め、構造を捉え、そのうえでなぜなぜ分析に入る。この順番を間違えないことが、問題解決の質を大きく左右します。

「問題解決がうまくいかない人」に共通する思考の癖

――では、「“なぜ”を5回考えても解決策が出ない」と悩む人は、何を見直すべきでしょうか?

 最初に見直すべきなのは、「問題を早く決めつけてしまう癖」です。

 エピソードを十分に集める前に、「これはこういう問題だ」とラベルを貼ってしまう。その瞬間に、思考の幅は一気に狭まります。そうではなく、エピソードを丁寧に集め、そこから共通項やパターンを見出していくことが重要です。

 とはいえ、こうした力は、一朝一夕で身につくものではありません。日頃から、エピソードベースで本質を考える練習が必要です。

 たとえば、「あなたは何者ですか?」と聞かれて、「会計士です」「コンサルタントです」と答えるのは、履歴書を見れば分かる話です。

 それよりも、「これまでの仕事人生で一番嬉しかった出来事は何か」「一番悔しかった出来事は何か」を、具体的なエピソードとして書き出してみる。どんな場面で、何に心が大きく動いたのかを見ていくと、自分が何を大切にしているのかが見えてきます。

 抽象化思考が苦手な人ほど、具体の解像度が低い傾向があります。だからこそ、超具体的に考えることを習慣づけることが、意味のある抽象化につながります。

――最後に、問題解決で最も大切なことは何でしょうか?

 それは、「なぜを5回繰り返すこと」ではありません。どの問題を解くのかを、どれだけ丁寧に選べているかです。

 表面的な「不」ではなく、人の心が動いた具体的なエピソードを見ること。

 原因を急がず、状況を立体的に理解すること。

 そして、構造が見えてから初めて、なぜなぜ分析に入ること。この順番を守るだけで、問題解決の質は大きく変わります。

 なぜなぜが効かないと感じたときは、分析の深さではなく、問いの置きどころを疑ってみてください。

――ありがとうございました。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。