現代の外食は「失敗したくない」という思いから、他人の評価やコスパに縛られがちです。しかし本来、食は自分自身の価値観で楽しむべきもの。話題の書籍『美食の教養』は、イェール大卒・世界128カ国を食べ歩いた浜田岳文氏が、歴史や経済、文化、また作り手であるシェフの視点から「食の本質」を解き明かす一冊。単なるガイド本ではなく、情報過多な時代に「人生をより豊かにするための美食」を提示します。今回はそのエピソードを特別公開します。(ダイヤモンド社書籍編集局)

「レストランは料理が美味しければいい?」→美食家の答えが納得すぎたPhoto: Adobe Stock

ミシュランの星は「皿の上だけ」
という公式見解の裏側

 たとえばミシュラン社は、ミシュランガイドの星の評価を「皿の上だけ」で行っていると公式に表明しています。

 これは、インターナショナルディレクターのグウェンダル・プレネックにも直接確認したので、間違いありません。

 ということは、ミシュランの星を獲得したい、もしくは増やしたいと思うのであれば、料理の質にだけフォーカスすればいい、ということになります。

 ただ、実際はその目的で大規模な改装を行い、サービスも含めて改善し、目指す星の数にふさわしい「格」に到達しようとするレストランは、国内外・現在過去含め、無数に存在しました。

 ミシュランの審査基準が変わったのかもしれないし、レストランがミシュランを信じていない(評価は皿の上だけではないと考えている)のかもしれない。

 真相は不明ですが、整合性が取れるように好意的に解釈すれば、改装したことでキッチンがアップグレードされたり動線が改善されたりして、結果的に皿の上の料理が良くなる、ということかもしれません。

一流店は「料理人自ら」が
サービスする時代へ

 いずれにしても、食べ手がレストランを選ぶうえでは、皿の上以外の要素も考慮するのが一般的です。

 たとえば、特に日本料理では、皿の上だけでなく皿(器ですが)自体が大事だったりする。

 お店の年間の利益が吹っ飛ぶくらい高価な器を、こつこつ買い集めているお店もあります。どういう器をどういう料理と合わせて盛り付けるか、これは見るべきポイントのひとつであることは間違いありません。

 食体験を形成する要素は、それだけにとどまりません。料理人やサービススタッフによるサービスも、重要な要素です。

 昔は、カウンターの鮨屋や割烹などを除くと、高級店では料理を作る人とそれをサーブする人に分かれているのが一般的でした。

 それが、北欧のレストランの影響で、料理人自らがお客さんのテーブルまで行ってサービスする、というスタイルが近年増えています。

 昔ながらのやり方を維持する店も当然ありますが、みんなで接客する、という流れが加速しています。

「料理人が運ぶ」ことの決定的なメリット

 提供する料理を実際に作っている料理人だからこそできるサービスがあります。

 たとえば、料理の内容に関しては、誰よりもわかっているので、お客さんから何を聞かれても答えられます。

 一方、プロのサービススタッフは、お客さんの属性や経験値を見極め、それに合った適切な料理の説明をすることができます。具体的にいうと、興味がない人には手短に説明したり、料理に詳しくないと見たら噛み砕いて説明したり、ということです。

 逆にいうと、そういうパーソナライズされたサービスができないのであれば、料理人が運べばいい、となってしまいます。

 ソムリエとしての仕事は今後も残るでしょうが、料理人にはできないサービスのプロフェッショナルならではの付加価値をつけられているか、も外食では注目したいところです。

(本稿は書籍『美食の教養 世界一の美食家が知っていること』より一部を抜粋・編集したものです)

浜田岳文(はまだ・たけふみ)
1974年兵庫県宝塚市生まれ。米国・イェール大学卒業(政治学専攻)。大学在学中、学生寮のまずい食事から逃れるため、ニューヨークを中心に食べ歩きを開始。卒業後、本格的に美食を追求するためフランス・パリに留学。南極から北朝鮮まで、世界約128カ国・地域を踏破。一年の5ヵ月を海外、3ヵ月を東京、4ヵ月を地方で食べ歩く。2017年度「世界のベストレストラン50」全50軒を踏破。「OAD世界のトップレストラン(OAD Top Restaurants)」のレビュアーランキングでは2018年度から7年連続第1位にランクイン。国内のみならず、世界のさまざまなジャンルのトップシェフと交流を持ち、インターネットや雑誌など国内外のメディアで食や旅に関する情報を発信中。株式会社アクセス・オール・エリアの代表としては、エンターテインメントや食の領域で数社のアドバイザーを務めつつ、食関連スタートアップへの出資も行っている。