課長として成果を挙げていたのに、部長に昇進してみると、なぜか仕事がうまく回らなくなってしまった…という人は実は少なくない。多くの企業幹部候補生を指導してきたグロービス経営大学院から見た、新任部長が組織を混乱させたりせず成果を挙げるうえで理解しておきたい「経営の基礎」とは? 累計180万部超の書籍「グロービスMBA」シリーズに新たに加わった、部長職以上を目指す人のための新刊『グロービスMBA エグゼクティブ・マネジメント入門』より一部をダイジェストでご紹介する。
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日本の企業においては、昨今の大企業を除けば、部長クラスになるまでに正式な経営教育を受ける人は多くない。人事ローテーションで複数の部署を経験することはあっても、会社のすべての部署を網羅的に経験することは不可能である。むしろ、研究開発なら研究開発一筋、営業なら営業一筋といった形で専門領域を深めてきた部長も依然として少なくない。
こうしたキャリアを歩んできた人材は、専門性においては強みを持つものの、「経営の視座を持ち、戦略家として考える」という部長本来の役割を十分に果たしにくい。その結果、組織にさまざまな不都合をもたらすことになる。たとえば経営の定石に合わない意思決定が増加したり、「何を優先したら、どこに負担が生じるのか」を正しく理解できずに、部分最適に陥り、全体最適を阻害してしまう。
では、部長以上の役職者が理解しておきたい経営(学)の基礎とはどのようなものか。「経営の全体像」の要素について、ここで整理する。「経営の全体像」に唯一の正解や確定したフレームワークがあるわけではない。しかし、代表的な視点をいくつか取り上げて押さえておくことは有用である。最もオーソドックスなのが、「ヒト・モノ・カネ」という3要素の視点で経営を捉えるアプローチだ。我々グロービスでも簡易版としてこのフレームワークを用いることがある。
ここでは、各要素について簡単に触れていく(書籍『グロービスMBA エグゼクティブ・マネジメント入門』では中核となる領域をさらに詳しく解説している)。なお、これらは経営大学院の基礎科目(通常は1年次に履修する科目)で学ぶ内容に対応していると考えてよい。
◉ヒト
企業を動かすうえで最も重要なのは、結局のところ「人材」である。AIによって一部の仕事が代替されることはあっても、人の役割が完全に消えることはない。だからこそ「人をどう効果的に動かすか」「どうすれば良い組織をつくれるか」を理解することが求められる。
この領域は大きく2つの柱に分けられる。
・組織行動学(リーダーシップを含む):個人に働きかけて動かすアプローチ。リーダーシップ論やマネジャー個人のマネジメント論などがここに含まれる。
・人材マネジメント(人的資源管理):組織的な仕組みで人を動かし、生産性を高めるアプローチ。いわゆる人事戦略や組織構造の設計もこの範疇に入る。
◉モノ
ここでいう「モノ」とは、製品や部品といった具体的なものづくりだけを指すのではない。戦略やマーケティングなど、競合に勝ち、顧客に選ばれるための仕組みを含む概念である。
近年、特に重要度を増しているのがオペレーション戦略だ。最適なサプライチェーンの構築や、「稼ぐ速度」を表すスループット(売上-真の変動費)の最大化などが代表的なテーマである。とりわけ戦略領域は幅広いサブ分野に分かれており、部長が「戦略家」として機能するうえでも欠かせない知識領域となる。
◉カネ
企業の成果や状況は、最終的には「お金」で測定される。株主をはじめとするステークホルダーが最も注目するのもこの側面である。したがって、部長以上の上級マネジャーには、お金に関するリテラシーが必須となる。
この領域は大きく次の2つに分かれる。
・アカウンティング(会計):帳簿上の利益を扱う。さらに「財務会計(ルールに基づき外部に報告する)」と「管理会計(社内の意思決定や運営に活かす)」に細分化される。
・ファイナンス(財務):キャッシュフロー、すなわち実際のお金の動きを重視する。企業価値の評価や投資判断の基盤となる考え方もここに含まれる。
◉思考
「物事をどう考えるか」という領域は、経営学の体系の中で必ずしも扱われないことも多い。しかし日本の学校教育では論理的思考を体系的に学ぶ機会が乏しいため、グロービスでは経営学の入り口として「正しい思考の方法」を重視している。
具体的には、論理的思考に健全な批判精神を加えた「クリティカル・シンキング」や、数字版クリティカル・シンキングともいえる「ビジネス・アナリティクス」を身につけることが必要である。これらを習得することで、意思決定はもちろん、コミュニケーション、ファシリテーション、交渉などのスキルも劇的に向上する。また、人間が陥りやすい錯覚や認知バイアスを回避することも可能になる。
◉志
グロービス経営大学院は「志のMBA」を掲げている。「志」と聞くと青臭い概念に思えるかもしれないが、高い志を持つビジネスパーソンとそうでないビジネスパーソンとでは、長期的に巻き込める人々の数や、最終的に成し遂げられる成果に大きな差が生まれる。
近年注目を集めるパーパス経営(企業の存在意義を明確にし、社会にどう貢献するかを示す経営)も、この流れに位置づけられる。経営者だけでなく部長クラスのマネジャーにも、組織を導く「志」を持ち、それを共有する姿勢が求められる。
◉テクノベート
「テクノベート」は、テクノロジーとイノベーションを掛け合わせたグロービス独自の造語である。現代において、一定のテクノロジー素養を持たないと、業務の効率化はもちろん、新たなプロダクトやビジネスモデルの構想・創出も難しい。
DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する際にも、基礎知識がなければ成果は限定的になるし、外部のSIerやパートナー企業と協業する際にも認識の齟齬を招きやすい。したがって、たとえ文系バックグラウンドの人材であっても、アルゴリズムやプログラミングに関する基本的な理解は必須である。






