私が初めてひとりでカウンターに座ったのは27歳の頃です。チェーン店でしたがとても達成感があって、友人たちに「人はひとりで鮨屋に行けるようになって初めて大人になるのだよ」などと吹聴していました。

鮨屋のライブ感と旬に魅せられ
職人から鮨の奥深い世界を学んだ

 その後、大ヒットコミック『江戸前寿司職人きららの仕事』(集英社)の原作者としても知られ、鮨評論の第一人者である早川光氏と出会いました。絶妙の話術から繰り出される鮨の話は誰もが引き込まれる、粋人です。

 2007年に出版された『日本一江戸前鮨がわかる本』(ぴあ→文春文庫)は、その英知を1冊にまとめたものです。編集に携わることで、氏から徹底的に鮨の歴史や作法を学び、お店に行くことで鮨の深遠に少し触れることができたのは幸運でした。

 結局その後、早川さんには『日本一の魚屋「根津松本」に選ばれたこの世でいちばん旨い魚』(2015年)、『新時代の江戸前鮨がわかる本』(2021年)という2冊を出していただき、堀江貴文さんには『堀江貴文VS鮨職人 鮨屋に修業は必要か?』(2018年)をお願いするなどして、私自身も鮨の世界にどっぷりはまっていきました。

 改めてお鮨屋さんの魅力を考えると、圧倒的なライブ感と旬を感じられることでしょうか。

 人形町で100年続く「き寿司(「き」は七が3つ)」を初めて訪れた時、先代の油井隆一親方のキリリとした立ち姿に痺れました。そこはまさに「舞台」で、親方が歌舞伎役者のように思えたのです。江戸の粋が体現されているようでした。

 今や鮨界のトップともいわれる「日本橋蠣殻町すぎた」の杉田孝明さんは、出会った30代前半の頃にはすでに、あの心を込めて祈るような握り姿で、一流の役者のようでした。

 当時はまだ移転前で、東日本橋の問屋街にあり店名は「日本橋橘町都寿司」。スタッフは奥様も含めて3人(ちなみにもう1人は群馬県館林市の名店「鮨恵三(めぐみ)」の荻原裕司親方)のみで、テーブル席もあって、まさに町寿司の雰囲気。おまかせ握りが5000円でした。

 それでいて杉田さんは堂々としていて握りの形はほれぼれするほど美しく、特に有名なコハダは当時からとびきりのおいしさでした。