「組織と戦略」の関係性を理解するためのフレームワーク「7Sモデル」をご存じだろうか。本記事では、多くの企業幹部候補生を指導してきたグロービス経営大学院が、部長職以上を目指す人が理解しておくべき知識やマインドセットをまとめた新刊書籍『グロービスMBA エグゼクティブ・マネジメント入門』より「7Sモデル」の解説を一部ご紹介する。

グロービス 7SPhoto: iStock/mapo(写真はイメージです)

 部長は企業の戦略遂行上の要職であると同時に、組織開発を推進し「良い組織」をつくる立場にもある。したがって、ヒト系に属する「組織」と、モノ系に属する「戦略」の関係性を、課長などよりも深く理解することが不可欠である。その際に有用なフレームワークの一つが「7Sモデル」である。

 7Sは以下の7つの要素から成り立っている。上段の3つ(Strategy, Structure, System)を「ハードS」と呼ぶ。中心のShared Value(共通の価値観・理念)を含む下段4つ(Style, Staff, Skill, Shared Value)を「ソフトS」と呼ぶ。

 7S分析では、自社の7つの要素それぞれを点検しつつ、相互の整合性を確認する。優れた企業では、これらの要素が互いを補完し、強め合いながら戦略を推進しているとされる。通常は企業全体や事業部レベルで用いられるが、部長クラスが自部署に応用することも十分可能である。

■ハードS(比較的変えやすい要素):意思決定やプラン次第で比較的短期間に変更可能とされる。
Strategy(戦略):外部環境に対応し、競争に勝ち業績を上げるための方向性。
Structure(組織構造):組織図や権限配置の形。
System(経営システム):人事制度、管理会計、ガバナンス、会議体・コミュニケーションなど組織を動かす仕組み。

■ソフトS(変わりにくい要素):人の意識やスキルが深く関与するため変化しにくい。強制的・短期的な変更が難しく、慣性が働きやすいのが特徴である。
Shared Value(共通の価値観・理念):組織に根づいた価値観(例:顧客第一主義)。
Style(組織文化・経営スタイル):組織内で受け入れられる考え方や行動様式(例:リスクテイクを歓迎する文化)。
Staff(人材):従業員の特性やメンタリティ(例:高学歴で努力家が多い一方で画一的になりやすい)。
Skill(組織スキル):組織全体が持つ能力(例:商品開発力、広告力)。

ハードSとソフトSのつながり

 重要なのは、ハードSの変更が必ずソフトSに影響を及ぼす、という点である。たとえば戦略(Strategy)が変われば、必要とされる組織スキル(Skill)や人材(Staff)の特性も変化する。あるいは経営システム(System)を変えれば、組織文化・経営スタイル(Style)や従業員のモチベーションも変化する。

 つまり、ハードSとソフトSは切り離せない関係にあり、一方の調整が他方に波及する。この連動を理解せずに戦略遂行や組織開発を行えば、部分最適に陥り、全体最適を損なう危険が高い。

 ここで、他の項目に比べるとややイメージしにくいのがSystem(経営システム)である。しかも、このシステムの運用は部長層が大きく関与する場面が多いため、特に理解が求められる。

経営システムを構成する要素

 経営システムは通常、担当部署が起案し、経営会議などで決定されることが多い。しかし実際に運用を担うのは部長層であるため、その仕組みを理解し、自部署の運営に適用できることが不可欠となる。典型的な構成要素は以下の通りである。

●人事制度
採用・配置・評価・報酬・育成・退出などに関する制度。労務管理も含む。部長が特に強く関与するのは評価・報酬・育成であり、採用にも影響力を持つ。戦略と齟齬がない形で運用することが求められる。近年は働き方改革やウェルビーイングへの配慮も必須であり、軽視すると労務トラブルにもつながる。

●管理会計制度
KPI設定、プロフィットセンターの区切り方、費用配賦、移転価格、PDCAの回し方、予算策定方法など。データドリブン経営の基盤であり、部長自身がKPI設計や予算管理に関与し、実効性のある運用を行うことが重要となる。

●ガバナンス制度
指名委員会や社外取締役制度に加え、コンプライアンス委員会やハラスメント通報制度など、株主視点で経営を健全に保つ仕組み。部長が直接その策定に関与する場面は多くはないが、株主の要求や期待、社内のコンプライアンスへの取り組みを理解することは、戦略遂行や組織運営において不可欠である。

●会議体やコミュニケーション
どのような会議体を設け、頻度や参加者、公開範囲をどう定めるかということに加え、コミュニケーションのツール選択(例:メール、Slack、Notionなど)や稟議プロセス(例:誰の承認が必要か)なども含まれる。会社全体で定める事項もあるが、部単位で裁量の余地が大きく、部長の設計力・運営力によって生産性やスピード感が大きく左右される。

●ナレッジ・マネジメントの仕組み
組織知を蓄積・活用し、暗黙知を形式知に変換するための仕組み。文書管理システムやデータベースなどによって情報の一元化と検索性を高め、必要な情報に誰もがアクセスできる状態を整える。加えて、ベストプラクティスを共有する場の設置や、経験・学びを言語化するワークショップの実施、最終的にはマニュアル化するプロセスも重要となる。