カミンスカスの拙著『地面師』の購入先は、刑務所内の書店である。事件に関係する書籍なので刑務所内にそのまま領置され、カミンスカスはいまだ読んでいないという。
市橋達也をはじめとして
有名な犯罪者が集まる第10工場
刑務所仲間だった橘田は几帳面な性格なのだろう。自らは10年の刑期で、そのあいだの生活を大学ノートに記していた。
「私たちのいた刑務所には全部で800人ぐらいが収監されていて、15の生産工場がありました。それぞれの工場で40人前後が働いていて、生産工場以外に受刑者が自営するための炊場工場とか、洗濯工場とか、衛生、医療病棟などもあり、私と操さんは生産工場の1つである第10工場で働いてきました。そこは高齢者を収容する養護工場でした。ワインを入れるための厚紙の袋をつくったり、婦人の革靴を裁縫したり、スマホをばらしてレアメタルだけを取り出す作業なんかもやっていました。いわゆる軽作業をするところです」
刑務所の工場はさまざまなモノを製造する。食卓に並ぶ爪楊枝や箸づくりは軽作業の部類に入るが、タンスやテーブル、椅子といった家具づくりは比較的若い受刑者が担う。第10工場では、新型コロナウイルスが流行した2020年以降、使い捨て防護服やマスクまでつくっていたという。橘田が自らのノートを開きながら、暮らしぶりをこと細かく解説してくれた。
「実は、この第10工場は有名な犯罪者が多いところでした。なぜ重い刑の人が配属されるかというと、軽作業の工場はもっぱらお年寄りの受刑者を働かせるところだからです。血気盛んな若い受刑者のいる工場に、カミンスカス操さんのような有名人が入ってくると大騒ぎになる。それを避けるため、重い刑の人は年寄りの多い養護工場に務めさせるのです。実際、第10工場では、あの市橋達也さんや映画『MOTHER マザー』のモデルになった少年A君も働いていました」
市橋達也は2007年3月、千葉県市川市で起きた英会話学校講師のリンゼイ・アン・ホーカーが殺害された事件の犯人である。当人は事件後ほどなく千葉県警に懸賞金付きで指名手配された。だが、人相を変えようと東京大学医学部附属病院の障害者用トイレでカッターナイフやハサミを使ってほくろや下唇を切り落とし、整形外科でも手術を受けて顔の形を変え、なかなか捕まらなかった。







