組織の体質は、放っておいても自然には変わらない。企業や行政などを対象に、働き方改革や組織改変などに携わっている沢渡あまね氏は、書籍『組織の体質を現場から変える100の方法』で、人材の流動性を高める取り組み以外にも「日常的に外の知識や学びに触れることも重要」と指摘する。しかし、組織が外部研修の受講に消極的なケースもある。その場合どうしたらいいのだろうか。本書の内容をもとに解説する。(文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

期待の若手社員の男性Photo: Adobe Stock

アップデートを止めた会社が取り残される理由

 当たり前のことだが、社風や組織の体質は社内のメンバーで醸成される。

 同じメンバーといつも同じ仕事をしていたら、変化がないままに月日はすぐに過ぎていくだろう。

 しかし、一歩外に出ると世の中はハイスピードで動いている。その情報や世間の「当たり前」を取り入れられないまま過ごしていると、あっという間に組織の体質は前時代的になってしまう。

 筆者がそれを如実に感じたのは、ツールだった。

 もう、8年ほど前の話になる。筆者は退職前に副業で他社の仕事を始めたのだが、その時に初めてスプレッドシートやGoogleドキュメント、チャットワーク、Slackなどを使った。

 社内ではグループウェアを使うよう決められていたので、それ以外のツールを使う機会がなかったのだ。

 エクセルは誰かがデータを開いていたらいつまでも使えないが、スプレッドシートは複数人が同時に編集できることに驚き、「会社でもこれ使えばいいのに。うちの会社は遅れているのかな……」と思ったのをよく覚えている。

外部研修の受講に消極的な組織で起こること

 ツールに限らず、組織の文化を健全にアップデートし続けるためには、日常的に外の知識や学びに触れることが重要だ。

 沢渡氏は、そのために有効な手段の一つとして「外部研修の受講」を挙げる。しかし、それに消極的な会社もあるという。理由は以下のようなものだ。

・お金を節約したい
・外の世界を見て変な刺激を受けてほしくない
・外部研修を受けるヒマがあったら、手を動かしてほしい
・そもそも人材育成の必要性を感じていない(P.207)

 そして、一部の経営幹部や管理職しか外部研修を受けることができない、管理職であっても登用時にしか外部研修が受けられない企業もあるという。

 組織が外部研修に消極的だと、どういった問題が起こるのだろうか。

 沢渡氏は「学習や成長に意欲的な社員の士気は下がる」と指摘する。

経営層や管理職と一般社員の間で知識や意識の差が広がり、会話がかみ合わない、改善や改革が進みにくくなるなど組織運営上の問題も生じる。
また、管理職の知識や意識が登用時のままアップデートされないリスクもある。(中略)
悪気なく時代錯誤な考え方や体質が醸成され、メンバーを無力化し組織を停滞させてしまう。(P.208)

社内講師やOJTでは得られない、外部からの刺激

 会社によっては、「外部研修を受けなくても、社内講師による研修やOJTで十分」と考えるところもあるだろう。

 しかし、沢渡氏は「外部研修は、自組織の中にいるだけでは獲得しにくい新しい知識や技術、世の中のトレンドなどを知る上で大変有効である」と指摘する。

 それはそうだろう。社内では得られない知見だからこそ外の専門家の教えを乞うのだ。得られる情報は段違いだ。

 筆者が以前勤めていた会社は、上司が親会社の出向社員で専門的な知識を持っていなかったこともあり、「専門知識は外部研修で賄ってほしい」と言われていた。

 おかげでさまざまな講座を受けさせてもらえたのは、今思い返してもありがたい。第一線で働く広告や編集のプロを講師にさまざまなことを教えてもらうことができたからだ。

 また、外部研修を受けるメリットとして、沢渡氏は「同じ研修を受講する他社の人たちとグループワークなどで意見交換や関係構築できるメリットも大きい」と語る。

 毎日が忙しければ忙しいほど、社会人は家と職場の往復になりがちだ。他の会社で働く人たちと出会う機会などない人も多い。そう考えると、外部研修での出会いは、外の空気に触れる大事な機会になるに違いない。

外部研修の必要性をどう伝えるか

 もし、会社が外部研修の受講に消極的であるならば、次のように話を進めることを沢渡氏は推奨している。

 まずは「外部研修を受けたい!」と主張し、自助努力や社内研修ではダメな理由を決裁者に説明する。

 たとえばあなたがDX担当に任命され、単にデジタルツールを導入しただけではうまくいかないことがわかったとする。

自社の中で考えていても進め方はおろか、必要な知識や技術も身につかない。よって社外の専門家による研修を受けたい。他社のDX担当者と意見交換する場に参加したい。このように、解決したい組織課題や業務を明確に示し、外部研修受講が有効であることを筋道立てて主張しよう。(P.208-209)

 その際の注意点として、沢渡氏は「『自己研鑽でなんとかしろ』と言われては元も子もない。まずは自助努力を示そう」と語る。

 ネットで調べたり書籍を読んだりして、それでも足りない部分を会社に求めるのだという。

「DXに求められるデータマネジメントを体系的に学ぶには自助努力では限界があるので、外部研修を受講させてください」といった具合だ。

外部研修で得た学びを社内に還元する

 さらに、外部研修の受講を希望する際、「できればマネージャーや他のチームメンバー、あるいは関連部署の人たちなどと一緒に受講できるように働きかけたい」と沢渡氏は勧める。

 その理由は次のとおりだ。

皆で同じ景色を見てレベルアップできる。外部研修の有効性も組織として実感しやすい。あなたが学んだことや感動を周りの人たちに伝達するコミュニケーションコストも下がる。「あなた一人だけが学びたいから会社が特別に許可する」といった不公平感を増幅させるような構造も作らずに済む。(P.209)

 さらに、外部研修を受けたら、学びや成果、変化を組織に必ず共有するのが大事だと指摘する。

 そうすることで、「外部研修に対する前向きな理解と共感が生まれてくる」と沢渡氏は語る。

 筆者も、研修後には会社から必ず報告書を提出するよう言われたし、他のスタッフを対象に「どんなことを学んだか」を報告する場も設けられた。

 正直面倒ではあったが、筆者の報告を聞いた他の社員から「来年は私も受けてみたい」などと声をかけられ、その必要性を実感したものだ。

 また、仕事をしていて「今の自分にはこれが足りない」と思って受けた外部研修での学びは、実践的で役に立ったし、研修で知り合った人たちからは大変刺激を受けた。

 他の企業で働く人たちの生の声に触れることで、自分たちの会社のいいところ、変えていくべきところも見えてくる。

 外部研修は、目の前の業務を直接進めるものではないかもしれない。

 だが、外の事例や考え方に触れることで、自分たちのやり方を見直すきっかけにはなる。

 そして、その学びを社内で共有することで、組織全体の視野も少しずつ広がっていく。

 外部研修は特別な施策ではない。小さなアップデートを積み重ねるための、一つの方法なのだ。