会社を伸ばす社長、ダメにする社長、そのわずかな違いとは何か? 中小企業の経営者から厚い信頼を集める人気コンサルタント小宮一慶氏の最新刊『[増補改訂版]経営書の教科書』(ダイヤモンド社)は、その30年の経験から「成功する経営者・リーダーになるための考え方と行動」についてまとめた経営論の集大成となる本です。本連載では同書から抜粋して、経営者としての実力を高めるための「正しい努力」や「正しい信念」とは何かについて、お伝えしていきます。
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どうやったらお客さまを
「特別に」扱えるのか
さらに、リレーションシップ・マーケティングでお客さまとの関係を深めていこうとするとき、大事なポイントとなるのは、一人ひとりのお客さまを「特別」に扱えるかどうかです。
こう言うと、多くの会社は、「自社は何万人も何十万人もお客さまがいらして、一人ひとりを特別に扱うなどできない」と答えます。
でも、私に言わせれば、そんなことを言っているから商売がうまくいかないのです。とにかく、どうやったら「特別に」扱えるのかを考えることです。できない理由を考えるのではなく、できる方法を考えるのです。
例えば、有効に利用できるのが、コンピュータシステムです。工夫次第で、お客さまを特別に扱うためのツールとして活用できます。
私の家の最寄り駅に、中堅のスーパーマーケットが2軒あり、どちらもポイントカードを発行しています。今は、どのスーパーでもポイントカードくらいは導入されていますが、もちろん、それをお客さまとの関係を深めるために利用しているのでしょうが、十分に活用できているとは言えません。
「データベースマーケティング」は
情報をお客さまのために使うのが鉄則
それらのポイントカードを発行しているスーパーなどは、個別のお客さまがどういうものを買っているかのデータを持っているはずです。その傾向も統計的に処理すれば分かるはずです。
でも、それを個別にお客さまに提案できているスーパーはどれだけあるでしょうか?
好きな食べ物に関連した商品をご案内する。給料日(と思われる)前後には、買い物のパターンが違っているかもしれません。それも考慮した提案をするのです。
メールで毎日でも提案すればいいのです。ポイントだけでは、なかなか差別化はできません。
個人情報保護が叫ばれて久しいのですが、「お客さまの情報をお客さまのために使う」という発想が乏しいのです。
自社が儲けるためのデータベースマーケティングになっている会社も少なくありません。お客さまのためになる情報を提供することが、結局は一番自社のためになるという発想が大切なのです。
マーケティング・マインドを持つ
マーケティング・マインドとは、お客さまに喜んでいただこうという気持ち、つまり「お客さま第一」の心です。もちろん、コンピュータシステムを使ってのデータベースマーケティングも有効ですが、ちょっとした気遣いも「あなたは特別」を作り出すのです。
以前、当社の近くに小さなスーパーがあり、私は毎朝出勤途中に飲み物を買いにその店に寄るのが習慣になっていました。朝早く行くので、レジにいる人も毎朝同じ店員です。そしてお互いに、お互いの顔を覚えてしまっています。
ですから、レジの店員は私がレジ袋をもらわないことを知っていて、飲み物をレジ袋に入れずにそのまま渡し「いってらっしゃいませ」と一言言ってくれるのです。だから私も、相手が自分を認識してくれていることが分かります。それで良いのです。もちろん、お互いが誰かは知りませんが、誰だか分からなくとも「特別」の関係は築けるのです。
このようなちょっとした配慮が、実はお客さまとの関係を深めていきますが、お客さまに「あなたは特別」と伝わるようにするためには、従業員一人ひとりが、お客さま一人ひとりを大切にしようとする気持ちがなければいけません。
先に挙げた自宅近くのスーパーのレジでの対応にしても、スーパーがコンピュータのデータをお客さまのために使い切れていないのは、経営者や働く人にお客さまを大切にしよう、どうすれば、もっとお客さまに喜んでいただけるのかという気持ちが少ないからに他なりません。
だから、ありきたりのことしかできないのです。そういう店は、結局はコンピュータがあっても無くても同じことしかできません。
ですから、まずは「お客さまを大切にしよう」という気持ちを、従業員に持たせるための「小さな行動」から始める社員教育を、経営者は徹底してやっていくしかないのです。
私の言う「良い仕事」の徹底です。
しかし、そのためには、経営者がお客さま志向であることはいうまでもありませんが、経営者はじめ従業員が、仕事やお客さまに対して「感謝の気持ち」を持つことが大切です。
従業員にも「あなたは特別」
「あなたは特別」を伝えることを、従業員に対して行うこともとても重要です。
「おいみんな」と呼びかけるのではなく、一人ひとり名前で呼ぶだとか、それぞれのちょっとした特徴を覚えておくだとか、ほんの小さなことでも、そういうものを人は求めています。
私のお客さまの中には、「それぞれの創業記念日」を各従業員さんに決めてもらって、その日には、社長から直筆のメッセージと図書カードが自宅に届くということを長くやっておられる会社があります。自宅に届くので家族も喜びますし、社長と従業員の距離も縮まったと言います。
特に、本社から離れたところにいる従業員は、普段社長と接することが少ないので、こうしたちょっとした「特別」の関係づくりはとても大切です。
私は20人足らずの小さな会社を30年近く経営していますが、一人ひとりにできるだけ声をかけるように気をつけています。昼食に近くのファミレスにも社員とよく行きます。
そうやって、お客さまでも従業員でも、一人ひとりが「自分は特別だ」と思えるような会社の仕組みを作れるかどうかが、会社がうまくいくかどうかを左右します。
お客さまでも従業員でも、十把一絡げに扱われてうれしい人はいません。
ちょっとしたことに手間をかけることが、関係を深めていくためには、とても重要といえます。
(本稿は『[増補改訂版]経営者の教科書 成功するリーダーになるための考え方と行動』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO
10数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。
1957年大阪府堺市生まれ。京都大学法学部を卒業し、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。在職中の84年から2年間、米ダートマス大学タック経営大学院に留学し、MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、91年、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。その間の93年初夏には、カンボジアPKOに国際選挙監視員として参加。
94年5月からは日本福祉サービス(現セントケア・ホールディング)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。96年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。2014年より、名古屋大学客員教授。
著書に『社長の教科書』『経営者の教科書』『社長の成功習慣』(以上、ダイヤモンド社)、『どんな時代もサバイバルする会社の「社長力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』『ビジネスマンのための「読書力」養成講座』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『「1秒!」で財務諸表を読む方法』『図解キャッシュフロー経営』(以上、東洋経済新報社)、『図解「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書』『図解「PERって何?」という人のための投資指標の教科書』(以上、PHP研究所)等がある。著書は160冊以上。累計発行部数約405万部。




