会社を伸ばす社長、ダメにする社長、そのわずかな違いとは何か? 中小企業の経営者から厚い信頼を集める人気コンサルタント小宮一慶氏の最新刊[増補改訂版]経営書の教科書』(ダイヤモンド社)は、その30年の経験から「成功する経営者・リーダーになるための考え方と行動」についてまとめた経営論の集大成となる本です。本連載では同書から抜粋して、経営者としての実力を高めるための「正しい努力」や「正しい信念」とは何かについて、お伝えしていきます。

なぜ、お客さまに喜んでいただこうと思っている会社は、儲かるのか?Photo: Adobe Stock

「代弁者」や「パートナー」になってもらうには
「感動」が必要

 リレーションシップ・マーケティングとは、「潜在客」を「顧客」にし、さらにその「顧客」を「得意客」「支持者」「代弁者」「パートナー」へと関係を深めていくことです。

 その際に、多くの会社で間違っていることがあります。それは、「お客さまの満足度を高める」、つまりCS(顧客満足度)運動を一生懸命していることです。

 もちろん、お客さまの満足度を高めるのは悪いことではありませんが、それだけで十分と思っていると、ダメなのです。満足で満足しているようでは、自己満足な会社で終わってしまうのです。

 なぜかというと、満足しているお客さまは「支持者」にまではなってくれるかもしれませんが、「代弁者」や「パートナー」になってはくれないのです。

 皆さんは、満足していることをいちいち人に伝えたいですか?

 多くの人は満足だけだと人には伝えません。しかし、感動すると、人は誰かに話したくなります。満足しているから、お客さまも他の会社に浮気をしない「支持者」にはなってくれます。

 しかし、あえて他の人にその会社の商品やサービスを薦めたり、ましてや会社を手伝ったりというところまで関係は深まりません。私は、満足は「80点」、感動は「100点」だと思っています。

マニュアルでも徹底的に作りこめば
感動を生む

 大切なのは、「いかにして感動を生み出すか」ということです。

 よく「感動はマニュアルからは生まれない」と言われますが、それはビジネスを知らない人が言うことです。感動は、マニュアルで十分に与えることができます。感動を生むようなマニュアルを作れていないだけです。

 例えば、ディズニーランドは子供にも大人にも感動を与えますが、ほぼすべてがマニュアルで動いています。スタッフはアドリブで動いているわけではありません。当社は、長年にわたり、会員制でセミナーを行っていますが、大阪での会場はザ・リッツ・カールトン大阪です。かれらの動きの大部分もマニュアルに従ったものです。

 つまり、感動が生まれるくらい精緻なマニュアルを作れるかどうかなのです。

 もちろん、お客さまを大切にする心や教育も必要です。

 マニュアルで感動は作り出せないという人は、マニュアルで満足すら作り出せないのです。お客さまがどういうときに喜び、感動するかということを深く考えていないからなのです。

 お客さまを喜ばせ、感動していただくためには、何をすればいいかを徹底的に考え抜いたマニュアルを作ればいいのです。

 ただ、そのベースとしては、各従業員が「お客さま第一」を徹底し、マーケティング・マインドを持つ必要があることは、言うまでもありません。

満足あっての感動
「サイレントマジョリティ」のお客さまが大切

 ただし、感動を追い求めるあまり、満足を忘れてはいけません。あくまでもお客さまが満足したうえでの感動なのです。

「サイレントマジョリティ」という概念があります。大多数の何も言わないお客さまのことです。このサイレントマジョリティのお客さまに満足いただいたうえで、感動を差し上げる努力をするのが本筋です。

 ディズニーランドや最上級のホテルでは、なにがしかの「感動」を得たいという「感動ハンター」のような来客も少なくありません。その人たちに感動を差し上げることは悪くはないのですが、それに重点が置かれるあまり、サイレントマジョリティのお客さまへの対応がおろそかになり、満足を差し上げられないのでは、本末転倒です。

 あくまでも、大多数のお客さまの満足が大前提のうえでの感動です。

 ここまでお話ししてきた「一番は偉い!」「あなたは特別」そして「感動」の3つが、リレーションシップ・マーケティングにおける重要なポイントです。

 それをいかに出せるかどうか。大切なのは、お客さまに喜んでいただきたい、という気持ちを持つことです。それが、マーケティング・マインドです。

 そうではなく、「これをやれば儲かるかな」といったくらいの気持ちでいると、お客さまに喜んでいただくことが儲けるための「手段」になってしまいます。お客さまはとても敏感ですから、ただ儲けたいと考えている会社からは離れていくのです。

 一方、お客さまに喜んでいただこうと思っている会社は、結果として儲かります

 働いている従業員も、そのほうが働きがいがあり、楽しいのです。お客さまに満足していただき、感動していただくための仕事ができれば、働きがいを感じられるのです。

 お客さまに喜んでいただきたい。その気持ちが、マーケティングの根幹になければならないのです。それさえあれば、あとは何とかなります。

 下手なマーケティング理論を振りかざしたところで、売れないものは売れません。

 お客さまが求めているのは、理論などではなく、自分が満足や感動できる商品であり、サービスなのです。QPSなのです。それ以上でも以下でもありません。

お客さまは敏感

 お客さまは敏感です。以前、こんなことがありました。

 ある病院で、アンケート調査をしたら、「トイレの清潔さ」という項目で、前回よりも格段に点数が上がっていました。病院の理事長は、原因が分からないと最初は言っていたのですが、しばらくして、「従業員が自発的に清掃を始めた」ことを思い出したのです。

 お客さまは敏感です。

 社内の人間が分かっていなかったことでも、社員以上に感じているものなのです。

(本稿は[増補改訂版]経営者の教科書 成功するリーダーになるための考え方と行動の一部を抜粋・編集したものです)

小宮一慶(こみや・かずよし)
株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO
10数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。
1957年大阪府堺市生まれ。京都大学法学部を卒業し、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。在職中の84年から2年間、米ダートマス大学タック経営大学院に留学し、MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、91年、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。その間の93年初夏には、カンボジアPKOに国際選挙監視員として参加。
94年5月からは日本福祉サービス(現セントケア・ホールディング)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。96年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。2014年より、名古屋大学客員教授。
著書に『社長の教科書』『経営者の教科書』『社長の成功習慣』(以上、ダイヤモンド社)、『どんな時代もサバイバルする会社の「社長力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』『ビジネスマンのための「読書力」養成講座』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『「1秒!」で財務諸表を読む方法』『図解キャッシュフロー経営』(以上、東洋経済新報社)、『図解「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書』『図解「PERって何?」という人のための投資指標の教科書』(以上、PHP研究所)等がある。著書は160冊以上。累計発行部数約405万部。