「手段の時代」から「目的の時代」へ――はじまった目的工学の取り組みをさまざまな形で紹介していく連載。渋谷のシェアオフィス・ブームの草分け、空間とコミュニティのデザインを通じて、 「場の発明」を実践していく、発明家集団ツクルバの中村真広さんから『利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのか』を読んで次のメッセージをいただきました。

空間デザインのようなハードウエアの
デザインだけでは、どこか物足りなかった

 物心がついた頃には既にバブルがはじけていた80年代生まれの自分にとって、今に至る「閉塞感」こそが育ってきた時代のカラーだった。経済的な状況以外にも、二度の大震災や9.11、そして様々な社会的事件がニュースを賑わす世の中である。

 高度経済成長を牽引してきた年上世代はそんな状況を憂い、未来への視野に陰りを感じる一方で、その状況を自分たちでは選択できない生育条件として受け入れてきた我々世代は、昨今の世界的に発生している社会的起業に共感し、少しずつ未来へのアクションを始めているように思う。それは、どんな状況でも疑うことなくそこにある「コモングッド(共通善)」に対するアプローチに、生存本能的に希望を感じているからなのかもしれない。

中村真広(なかむら・まさひろ)
1984年11月生まれ。東京工業大学大学院建築学専攻修了。建築設計の前段階から関わるべく、(株)コスモスイニシアに新卒入社。その後、ミュージアムデザイン事務所(株)ア・プリオリにて、ミュージアムの常設展示の企画など、空間を埋めるコンテンツづくりを経験し、2011年6月に独立。フリーランスで活動後、2011年8月に(株)ツクルバを共同創業。同12月、シェアードワークプレイス「co-ba shibuya」をオープン。企画・設計・運営を一貫して行う「場の発明」を通じた、ソーシャル・キャピタルの構築を目指して活動している。

 2011年に創業したツクルバという会社では、「場の発明」を通じて次のスタンダードになる文化を創造していくことを本書で言うところの大目的に掲げている。

 我々の考える「場」とは、空間だけではなく、そこに生まれるコミュニティも含めた、空間と人、人と人の間のソーシャル・キャピタルの総体のことを指す。そして、この大目的のために、不動産の企画から空間設計、そして運営までを一貫して引き受ける体制で企業活動をしている。

 元々、建築出身の自分にとって、空間デザインのようなハードウエア側のデザインに興味があるのはもちろんだったのだが、それだけではどこか物足りない感覚があった。