黒背景に電卓と虫眼鏡写真はイメージです Photo:PIXTA

今回は、産業ガス大手の東証プライム上場企業、エア・ウォーターで発覚した、ある意味「不正会計史上最悪」ともいえる事件の裏側をご紹介する。現場の従業員からの悲痛なSOS、そして経営トップが取った信じられない行動……。真相をひもといていくと、「数字をいじること」の本当の恐ろしさが見えてくる。(公認会計士 白井敬祐)

マレーシア子会社からのSOSから発覚した
「売上1兆円企業」の不正の数々

 エア・ウォーターは、売上高1兆円超、グループ従業員数約2万人、国内外に261社ものグループ会社を抱える超巨大企業です。産業ガスという安定したインフラ事業を基盤に持ち、誰もが認める優良企業……のはずでした。

 しかし、その巨大な足元は、長年にわたり静かに腐敗し続けていました。

 事の発端となったのは、2024年4月、遠く離れたマレーシアの子会社から届いた一人の従業員による内部通報でした。

「うちの会社の在庫データ、明らかに実態と乖離しています」――この勇気ある告発をきっかけに社内調査を進めると、マレーシアの拠点だけで約16億円もの在庫の過大計上と、回収不能に陥っている3億円の売掛金が発覚したのです。

 この「海外子会社でのイレギュラーな事案」が、実は巨大な氷山の一角に過ぎなかったことが判明するまでに、そう時間はかかりませんでした。マレーシアでの問題を重く見た(あるいは、嫌な予感を感じ取った)本社は、他のグループ会社でも一斉に自主点検と調査を開始します。

 すると翌25年3月、今度は日本国内の子会社「日本ヘリウム」における実地棚卸の現場で、とんでもない事実が発覚しました。