米国およびイスラエルと、イランとの間で繰り広げられる軍事的な応酬は、今やかつてない規模に達している。この情勢悪化に伴い、海外に滞在する邦人の安全を脅かす看過できないリスクが表面化している。

 それは、戦火の絶えない中東地域そのものではなく、そこから遠く離れた第三国において実行される「反イスラエル・反米テロ」の脅威である。イスラエルの権益やユダヤ系コミュニティを標的とした攻撃は、過去にも世界各地で発生しているが、その背景には常にパレスチナ情勢や周辺国との緊張関係が存在し、特にイスラエルによる軍事行動が引き金となって報復の連鎖を招く傾向が顕著である。

大使館や軍事施設だけではない
市民を巻き込むテロの標的

 歴史を振り返れば、テロの標的が大使館や軍事施設といった公的な拠点に限定されないことは明白である。

 たとえば、2012年7月、ブルガリアのブルガス空港で発生したバス爆破事件は、イスラエル人観光客を狙った極めて凄惨(せいさん)な事例であった。チャーター便で到着した直後の観光客を襲ったこの惨劇では、イランやヒズボラの関与が取り沙汰され、多数の死傷者を出している。

 また同年2月には、インドのニューデリーで外交官の車両が爆破され、ジョージアでも大使館を狙ったテロ未遂が発覚した。さらにタイのバンコクでは、イスラエル外交官の暗殺を企てていたとされるイラン人グループのアジトで爆弾が誤爆し、容疑者が逮捕されるという事件も起きている。そのうち2人はイランへ強制送還された。

 こうした脅威は、近年の情勢不安によってさらに拍車がかかっている。

 2023年10月にイスラエルとハマスの衝突が激化して以降、中国の北京では路上でイスラエル大使館関係者が襲撃され、インドでも再び大使館付近での爆発事案が報告された。

 そして、記憶に新しい2025年5月には、米国ワシントンDCにあるユダヤ系の歴史・文化博物館の前で銃撃事件が発生し、イスラエル大使館員2人が命を落とした。拘束された男が「パレスチナに自由を」と連呼していた事実は、中東での紛争が個人の過激化を誘発し、世界のどこであっても暴力の舞台になり得るという厳しい現実を突きつけている。