停戦計画の進展次第ではネタニヤフ首相(左)再選の可能性も高い Photo:Chip Somodevilla/gettyimages
3年目に突入したイスラエル・ガザ戦争だが、終結に向けてようやく議論が始まりつつある。鍵を握るのはトランプ米大統領だ。そしてトランプ大統領の野望はガザ停戦にとどまらない。特集『総予測2026』の本稿では、停戦までの道のりと、トランプ氏が狙うその後の展開を解説する。(慶應義塾大学法学部教授 錦田愛子)
トランプ氏が提示した停戦計画を
国連安保理も決議として採択
イスラエル・ガザ戦争はついに3年目に突入した。泥沼化し拡大した戦闘は、終結に向けてようやく議論が始まりつつある。2025年9月にトランプ米大統領が提示した20項目の「ガザ紛争終結のための包括的計画」は、その翌々月に国連安全保障理事会でも決議として採択された。米国が国連と珍しく歩調を合わせ、国際的な枠組みとして促進されることになった。
25年の中東は、他の地域と同様に第2次トランプ政権の発足によって翻弄されることとなった。スタンドプレーを好むトランプ大統領は国際的な停戦仲介に意欲を示し、パレスチナ・イスラエル紛争にも関与してきたからだ。
大統領就任前から仲介役としてスティーブ・ウィトコフ氏らが中東に派遣され、紛争当事者に対して停戦や人質の解放を働き掛けた。合意に応じなければ「中東に地獄が訪れる」という独特の脅し文句まで用い、25年1月の大統領就任式典の前日には停戦が無事に発効することになる。
イスラエル側の人質の解放は2月にかけて段階的に進み、予定されていた33人全員が解放された。交換条件でパレスチナ人政治囚の釈放も進み、3段階で予定されていた停戦案のうち第1段階はなんとか完遂された。
その次に注目を集めたのは、25年6月のイスラエルによるイラン攻撃である。イラン国内ではウラン濃縮施設を含めた核関連施設やテヘランの革命防衛隊本部など複数箇所が突然攻撃され、甚大な被害を受けた。
報復としてイランはドローン約1000機とミサイル約500発でイスラエルを攻撃し、戦闘は12日間続くことになった。この戦争の終結を促したのもトランプ大統領だった。イスラエルからの要請に基づきB2爆撃機などの編隊で地中貫通爆弾(バンカーバスター)をイランの核関連施設に投下した後、米国はイランとイスラエルの間で停戦合意が成立したと一方的に発表した。それでもイスラエル軍が攻撃を継続しようとすると、トランプ大統領は「爆撃をやめろ」と強い憤りをあらわにし、以後の停戦を遵守させた。
そして9月末に発表されたのが、20項目の停戦計画である。計画の発表に先立ち、ホワイトハウスで4度目の対談を行ったイスラエルのネタニヤフ首相は、トランプ大統領に促されてカタールのムハンマド首相に謝罪の電話をかけた。同月初めにイスラエルがハマース幹部らを狙って首都ドーハを攻撃して以後、カタールは交渉の仲介を拒否していたからだ。
イスラエルの首相が自国軍の攻撃について公式に謝罪するというのは極めて珍しい。トランプ米大統領の影響力の強さを伺わせる事態だが、米国の影響力は、今後も持続するのか。また、トランプ大統領がガザ停戦の先に見据える野望とは?次ページ以降、さらに詳しく解説する。







