チャンスを逃したくなくて、つい全部に「イエス」と言っていませんか。VCは100回「ノー」を言い、たった1度の「イエス」に賭ける。速くふるい落とし、残ったものだけを深く見る。断る力を身につけ、意思決定を研ぎ澄ますためにはどうすればいいでしょうか?
楽天グループ代表取締役会長兼社長・三木谷浩史氏をはじめ、Google元会長やZoomの創設者も絶賛する世界的ベストセラー『1兆ドル思考 世界一流の成功をもたらす9原則』をもとに解説します。
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100回の「ノー」と1度の「イエス」を言う覚悟
目利き力を発揮して、目の前にある機会の大半を手際よく却下するのは、ベンチャー投資家だけに限られた特権ではなく、誰もが習得できるスキルだ。
主な目標は、承認プロセスに進む前に大半の機会を効率的に却下すること。そのためには、複数の人々、理想を言えばプリペアードマインドを備えた人を関与させるのが有効だろう。
この場合、意見の不一致がいちばんの味方になる。適切な意思決定のペースを設定し、明確なルールを定めることで、プロセスがより予測可能で効率的になる。
すべてのアイデアのうち勝ち残るアイデアの割合が約100分の1であることを思い出してほしい。
厳しい目で選択しなければ、後で悔やむような間違いを犯したり、貴重な宝石を見逃したりするかもしれない。
ジャーナリストや作家にとって、米国で最も権威のある賞の一つであるピューリッツアー賞は、いかに効果的に繰り返しノーと言うかについて格好の事例研究を提供する。
『アラバマ物語』のような必読書や、歴史的な「ウォーターゲート事件」を暴いた主要記者らが、これまでにピューリッツアー賞を受賞している。
審査員は、文学部門であれば、数千の応募作品の中からそれぞれ300作品を読む。審査員はその300作品の中から3作品のみ委員会に推薦できる(ここでもまた100分の1だ!)。
ある元審査員は「すべての本が審査員に読まれるわけではなく、すべての本が必ずしも綿密な審査に値するわけでもない」と語り、内幕を明かした。ピューリッツアー賞の審査員も、VCと同様の二速アプローチを使っているとみられる。
人材の採用はどうだろうか。ここでも同じ考え方が当てはまる。採用率が1%を大きく下回るグーグルでは、第一段階で履歴書を迅速に「スクリーニング」し、候補者のショートリストを作成する。
第二段階では、残った候補者の面接を実施して、第一段階よりもはるかに綿密な審査を行う。
他の多くの企業でも同じアプローチがとられている。
家を買うときはどうだろうか。ジロー(Zillow)〔訳注:米国のオンライン不動産サイト運営会社〕のレポートによると、見込み客はざっと閲覧した100件の物件のうち、32件の情報をさらに検討するために保存する。
この32件のうち4件についてのみ不動産業者に問い合わせ、その時点で真のデューデリジェンスが始まる。ここでも、最初はすばやく考え、後の段階で時間をかけて意思決定を行う状況が見て取れる。
私たち自身がより頻繁に「ノー」と言うようになったのは、若き映画脚本家でエミー賞を受賞したミカエラ・コールの話がきっかけだった。
2017年、コールは人の心をつかんで離さないコメディドラマ『アイ・メイ・デストロイ・ユー(I May Destroy You)』について、ネットフリックスから魅力的な100万ドルの契約オファーを受けた。
当然、主要なストリーミングプラットフォームと契約を結ぶことに気持ちが傾いたが、結局コールは断った。契約条件を慎重に検証した結果、ネットフリックスが著作権の一定割合を自分に与えないことがわかったからだ。
この行動はリスクを伴うものだった。だが、その直後にBBCとHBOがコールの価値観と優先順位により合致した、はるかに条件の良い契約をオファーしてきた。
これも、ベンチャーマインドセットと、人生を変えるような機会を探求しながらも利益の上振れが見込めない取引を断るという、この思考法がもたらした能力のたまものだ。
何度も繰り返し「ノー」という準備をしておこう。
それがベンチャーキャピタリストの考え方であり、習い性だ。
ベンチャーキャピタリストは最初に見た家や車を買おうとはしない。100軒の家を内見し、十数種の車を試乗したいと思っている。
もうおわかりのように、この戦略は優柔不断や行きすぎた懐疑主義によるものではない。
VCのような環境で成功するには、100回「ノー」と言い、1度だけ「イエス」と言う覚悟を持たなければならない。
並外れたアイデアや卓越したスタートアップはごくまれな存在だ。
それでも、少なくとも1度は「イエス」と言わなければならない。
目の前に現れるすべての機会を却下することはできないのだ。アイデアが一つだけのファネルはいただけないが、アイデアがゼロのファネルはもっといただけない。
(本記事は『1兆ドル思考 世界一流の成功をもたらす9原則』から一部を抜粋・編集しています)







